スマートデイズが運営していた、家賃収入を保証するシェアハウスなどへの不動産投資をめぐる「かぼちゃの馬車事件」から5年。ローン提供面での組織的な不正が発覚したスルガ銀行が経営危機に陥るなど大きな社会問題となったが、今、「第2のかぼちゃの馬車事件」化すると懸念される事案が注目されている――。
「会社に何回電話しても『担当者不在のため折り返します』との回答で、連絡が来ることは一度もなかった。電話対応しているのは受付代行の女性で、担当者名や連絡先を聞いても『わからない』の一点張り。受付代行の会社名も『教えられない』との対応。社長も社員もずっと逃げ回っている」
2018年9月に購入した中古の区分所有マンションで不動産投資トラブルに遭った林田さん(仮名)は怒りを滲ませながらそう語る。家賃収入を保証するサブリース契約を結んだ林田さんは、昨年10月、11月分の賃料が不払いになっていることに気づき、どうなっているのか問い合わせた。その後10月分だけは振り込まれたものの、12月には11月分の振り込みはなかった。今年になってから、一部賃料が振り込まれたものの、2カ月分は振り込まれないままで、問い合わせを続けているという。
投資トラブルを起こしている不動産会社は株式会社ReVie(レヴィ)で、管理会社はBLAZE(ブレイズ)株式会社。林田さんが物件を購入した当時、BLAZEはReVieのグループ会社だった。賃料は「入居者」→「BLAZE」→「物件オーナー」という流れである。オーナーの多くはReVieの紹介でBLAZEに管理を委託していた。林田さんのようにReVieから区分中古マンションを購入していたオーナー複数人が、SNSに「所有している物件の賃料が振り込まれない」と投稿し始めたことから、今回のトラブルがだんだんと広まっていった。
なお、ReVieは1月に、CAPITAL(キャピタル)株式会社に社名変更している。そして、BLAZEは賃貸住宅管理業法違反で4月5~19日までの15日間、業務停止の処分を受けている。同法違反が認定されたのは、重要事項説明書類の交付を怠ったこととされている。
賃料よりオーナーへの支払いが高い「逆ざや」
ここ数年、さんざん問題になっているサブリース契約だが、サブリースのメリットは簡単にいうと、物件オーナーへの家賃保証だ。空室があると、オーナーは予定していた家賃収入が得られなくなってしまうので、入居者がいてもいなくても管理会社が一定の家賃を保証するというものだ。
今回のトラブルでは、管理会社は入居者から取っている家賃より、オーナーに高い賃料を保証する「逆ざや」」が起きていたという。例えば、マンションを販売するときに購入者(オーナー)に9万円の賃料を保証して、入居者から毎月8万円の家賃しか取っていなかったら、管理会社は毎月1万円の赤字だ。しかし、投資用不動産の世界では、家賃の高い不動産は高値で売却しやすいという特徴がある。逆ざやをして賃料を高く見せることによって、販売価格をつり上げて相場よりも高い値段で販売をする業者もいる。
「私はReVieから約1800万円で購入したが、同じマンションで他の部屋の販売価格を調べると、当時でも1300~1400万円だった。販売上の物件価格をつり上げて販売していたようで、悪質だなと思った」(林田さん)
ReVieは相場1300万円の物件を1800万円で売っていたことになるが、上乗せしていた500万円から月々の赤字分を補填していたのかもしれない。しかし、そんなことを続けていたらいずれ破綻するのは素人でも想像できる。
林田さんはReVieから紹介されたオリックス銀行でローンを組み、マンションを購入した。オリックス銀行は2017年9月からReVieとの取引を開始し、現在は取引を中止しているという。管理会社BLAZEからの支払いが遅れると、オーナーらは銀行へのローン返済ができなくなる恐れがある。同行の広報担当者は「審査などの手続きに問題はなかった」と話す。
販売ツールにマッチングアプリを利用か
林田さんのマンション購入のきっかけは、マッチングアプリで知り合った女性だという。
「知り合った女性から『もし不動産に興味あるなら』と言われて、ある女性を紹介された。で、その方からReVieを紹介された。だから、私とReVieの間には2人いて、他の被害者から話を聞いても、マッチングアプリ経由の紹介は結構あるみたい。これも今考えるとすごく怪しいのだが、当時は気づかなかった」
林田さんに不動産投資を勧めた女性らはReVieから紹介料を受け取っていたのか、あるいはReVieの社員だったのか、不明である。林田さんの不動産投資はこれが初めてで、購入したのは1Kで約26平方メートルという間取りの都内にある中古マンション。
「これも反省していることで、購入するときに物件を確認しなかった。不動産投資するなら、やはり購入前に現地に行って現物を見るべきだし、入居者の情報も得るべき。紹介してくれた人が『行かなくても大丈夫』みたいに言うので信じてしまった」
詐欺としての立件は難しい
ReVieは代表の植西剛士氏が2015年に設立した不動産会社で、設立時はHEARTS Asset Management(ハーツアセットマネジメント)という社名だった。前述の通り、今年1月にCAPITAL株式会社に社名変更している。ビジネスでは、1500万円前後の中古マンションの取り扱いが中心だ。姫屋不動産コンサルティング代表の姫野秀喜氏は以前からこの会社のことを知っていて、印象をこう語る。
「かなり強気の価格で区分(所有マンション)とかを仕入れていると聞いていた。それだけ売り先があるというか、他社よりも高く売る自信があったのだろうと思っていた。大手にいる知り合いのなかには『仕入競争でReVieさんに負けた』みたいなことを言っていた人もいた」
この投資トラブルで賃料未払いの被害に遭ったオーナーのなかには「詐欺ではないのか」と指摘する人が少なくない。しかし、姫野氏は詐欺としての立件は難しいと語る。
「例えば、オーナーから9万円で借り、それを入居者に8万円で貸しますと、それぞれ契約していただけで、契約書自体は正しく有効だ。単に管理会社が勝手に逆ざやで1万円損しているだけで、銀行をだましていたわけでもない。サブリース自体は法的に認められているビジネスで、サブリースの金額をいくらにしようと問題はない。もし、契約書以外の覚書みたいなもので何か約束を交わしていたならば問題かもしれないが」
一般的にビジネスにおいて詐欺性の証明は難しい。
「もし、管理会社(BLAZE)が倒産したら、計画倒産が疑われるだろうが、『経営上は成り立つ予定でした』とか『逆ざやのものもあれば、逆ざやじゃないものもあるので』もしくは『何年か後に契約更新で黒字化する予定だった』というふうに経営健全化の意思を主張されたら、詐欺として立件するのは難しい」(同)
オーナーへの賃料保証を逆ざやにするほど高額にしてまで、物件を高く販売していた今回のトラブル。不動産業界ではよくあることなのだろうか。
「よくある話かと聞かれれば、そんなことはない。ただ、施工不備問題で経営再建中だった大手のL社も、かつて逆ざや物件を多数抱えていたが、オーナーへ保証賃料を下げるかサブリースを解約するかというプロジェクトを社内的にやって黒字化していた。だから、今回のようにいきなりオーナーに対して賃料未払いとするのは拙速な対応だと思う。まずはオーナーに対して『申し訳ないが賃料下げさせてほしい』と頭を下げることから始めればよかったのではないか」(姫野氏)
不動産投資「とりあえずやってみる」はダメ
近年は年収500万円くらいの平均的な会社員でも老後のことを考えて不動産投資を始める人が少なくない。失敗しないポイントについて、姫野氏はまず、購入を検討する際は慎重の上にも慎重を重ねることが重要だという。
「『とりあえずやってみて、やりながら考える』とか『うまくいかなければ方向修正すればいい』という考え方はダメ。金額が小さいから練習として区分所有でやろうみたいな考え方は不動産投資では通用しない。株なら株価が下落してきて売却すれば、損してもせいぜい数万円か数十万円単位。不動産では買った瞬間に数百万、数千万の損失が確定することもある。会社員の多くはローンを組んで購入するので、それだけで多額の借金を背負うことになる」(同)
投資対象としての優良物件を見極める方法を聞くと、姫野氏は「手付金が20万円など安すぎる契約は基本的に怪しい」と語る。
「優良物件の手付金は、だいたい物件価格の5~10%。2000万円程度の物件なら約200万円払う。手付金200万円と言われたら、一般の人は躊躇する。しかし、こういった区分所有の場合、手付金は5~20万円と、すごく気軽に出せる金額。しかも『今すぐ契約しないとなくなりますよ』と急かされるので、20万円だったらとりあえず契約しておこうと払ってしまう。早く契約書に印鑑を押させたいから手付金が安い」(同)
一般の会社員がポケットマネーで契約できるような物件は要注意ということだ。不動産投資にそんなにウマい話はない。
(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=姫野秀喜/姫屋不動産コンサルティング代表)