厚生労働省が5月21日、日本でも普及が始まった電子たばこの一部から発生する蒸気に発がん性物質の「ホルムアルデヒド」が含まれていると発表したことで、NHKなどがその問題を大々的に報じた。しかし、銘柄は公表されておらず、電子たばこ業界からは「本当に有害物質が発見されたのであれば、消費者のためにも銘柄を公開すべき。公開しないのは、電子たばこ業界全体に悪いイメージを植え付けて、国の財源である『たばこ』産業を保護しているとも受け取られかねない」といった声も出始めている。
「電子たばこ」とは、香料などが入った液体を熱で蒸発させた気体を吸うもの。10年ほど前から世界で普及が始まり、欧米では間もなく年間1兆円近い市場になるといわれている。日本でも200億円程度の市場があるとみられている。海外ではニコチンが含まれた製品でも、ニコチンを燃焼させてタールが出るわけではないので販売が許可されているが、日本ではニコチン入り製品の販売は認められていない。
日本で販売されている優良品の液体は、香料やグリセリン、プロピレングリコールなどの食品衛生法で認められている食品添加物で構成されている。健康志向から禁煙する人が本物のたばこの代替として使用するケースが多いようだが、飛行機や電車内の禁煙エリアでの利用は紙巻きたばこと同じように扱われ、慣習的に原則禁じられている。
厚労省の発表の主な内容は、国内で販売されている9種類の吸入器と103種類の液体を調べたところ、4つの器具の煙からホルムアルデヒドが検出され、この4つのうち2つからは、たばこに含有される同物質(76マイクログラム)を上回る100マイクログラムと120マイクログラムが検出されたというもの。また、8種類の液体からは、日本では禁止されているニコチンも検出されたという。
調査方法に批判も
しかし、こうした厚労省の発表に対して、電子たばこ製造販売大手のVP Japan(本社・東京都)は、「弊社の製品を第三者の研究機関に委託して厚労省の調査と同様の方法で調べたところ、ホルムアルデヒドの発生量は微量の0.121マイクログラムで、まったく問題ない水準。厚労省の調査は、粗悪な並行輸入品を使ってのものではないか。こういう調査の仕方では、業界全体に問題があるように思われるので困る」と批判する。
VP Japanによると、同社製造のリキッドは中国の委託工場で日本式の生産管理・品質管理を導入して生産しているほか、純国内産のものもあるという。中国での生産は、日本の香料工業会の会長企業である優良企業が担当しており、海外向けのニコチンが含まれているリキッドと、日本向けにニコチンを含入させてはいけないリキッドの製造ラインを分離して、間違って混入することのないような管理体制も構築しているという。
また、本物のたばこの煙に含まれる有害物質はホルムアルデヒドだけではなく、人体に有害なもので250種類、発がん性物質で50種類をそれぞれ超えるといわれている。特定の物質だけを比較するのもおかしい。厚労省は昨年11月28日にも電子たばこについて有害物質が含まれているとの調査結果を発表しているが、この時の調査は2010年に実施されたものであり、対象は旧世代の商品が中心で、新世代の商品は調査の対象になっていないとみられる。こうした厚労省の姿勢に対し、「通常ではありえない劣悪なデータを、意図的につくり出している」といった批判も電子たばこ業界からは出ている。
銘柄やメーカー非公開の疑問
そもそも、厚労省が問題のあった製品銘柄やメーカーを公表していないことにも疑問が残る。ニコチンは、毒物および劇物取締法に抵触する物質であり、それが検出されたとなれば即座に公表するのが消費者のためだ。日本では電子たばこには法規制がなく、未成年でも買えるため、判断能力の低い子どもが口にする可能性だってあるのだ。こうした対応から、国の財源であるたばこを守るための意図的な調査ではないかと勘繰られているのだ。
VP Japanは5月22日付で、現在のような調査だと風評被害が広がり、健全な業者でも経営に影響が出ることなどを訴えた要望書を厚労省に送った。同社は「日本には規制がない状況下で粗悪品が入ってきていることも事実。正しい使用方法が普及し、安全な製品だけが販売される仕組みづくりを国も考える局面にある。業界の健全な発展のために規制を強化することに異存はない」と説明する。
海外ではニコチンが含まれる電子たばこの未成年者への販売が認められているケースもあることから、世界保健機関(WHO)は昨年、健康に影響を与える可能性があるとして、販売を規制することなどを勧告している。
(文=井上久男/ジャーナリスト)