カラオケルーム「ビッグエコー」を展開する国内カラオケ最大手の第一興商が、役員・吉川満氏の息子・渡氏が実質的に関与する大阪府内のS社に、カラオケ機器を売値の4分の1以下という不当に安い価格で提供していたことが取材によりわかった。
また、一連の経緯の中で、満氏が第一興商役員としてS社に対して、渡氏が企画したカラオケ事業に投資するよう働きかけていたことや、結果として失敗したS社のカラオケ事業を第一興商の下請け会社に買い取らせていたこともわかった。
関係者によると、2011年9月頃、渡氏は旧知であるS社社長に「会社を倒産させてしまったが、自分は第一興商役員の息子で、カラオケ事業をするのであればノウハウや機器の仕入れで便宜を図ってもらえる。そちらの会社で事業をやらせてくれないか」と依頼。その後、S社社長らは第一興商の満氏とも面会したという。その際に満氏は、「息子をよろしくお願いします。何があっても損はさせない、第一興商が全面的にバックアップする」と述べ、会食の費用は第一興商近畿が支払ったという。
このような経緯で、S社によるカラオケ事業は14年4月より兵庫県尼崎市にて始まった。今回入手した第一興商近畿とS社の契約書を見ると、DAM-XG5000G(小売価格280万円)やマイクなどの機材20セット、計約6800万円を4分の1以下の1600万円で提供することとなっている。話の経緯などからして、この異常な価格設定には役員の息子が関与している以外に、理由がない。
その後、このカラオケ事業は渡氏が計画していたほどうまくいかず赤字を垂れ流していた。S社は事業資金を借り入れで調達していたが、その返済も滞っていた。
満氏はS社に「話が違う」と詰め寄られることになるが、そこで満氏は第一興商の下請け会社に事業を買い取らせることを提案。今年1月末に大阪府の内装業者であるハイデクスタとS社の間で事業譲渡契約が結ばれた。契約は2社間だが、作成にあたっては第一興商近畿の役員や顧問弁護士が動き、さらにハイデクスタへの事業譲渡後もこのカラオケ事業には第一興商社員が従事していたという。実質的には第一興商が会社ぐるみで「役員の息子の尻拭い」を下請けにやらせた格好だ。
内部統制に問題
一連の取引の動機は息子かわいさゆえのものだろうが、第一興商の高価なカラオケ機器を正規の価格で仕入れているカラオケ店や飲食店などの他の顧客に、どう説明するのかという問題は当然にしてある。また、このような目に余る会社私物化がまかり通るような社内状況では、同社の内部統制に重大な欠陥があるのではという疑いが残る。
満氏は過去、渡氏が大阪府内で経営していたVOICE JAPAN(旧社名:MATERIAL,INC.、実質的に破たん状態)の役員を務めていたこともあり、関係者によると第一興商とも一部で取引があったという。