本会見は率直にいって極めて異例であり、会見のタイミングやコメント内容には驚いた部分があります。同じ局面に置かれた企業の危機広報対応はどうあるべきか、その考察の一助となるべく、企業の危機管理コンサルティングを生業にする立場から同会見内容について検証してみます。具体的には、危機対応視点から「7つの驚き」を列挙しつつ述べていきます。トヨタに対してやや厳しい評価も含まれますが、尊敬する同社への「激励の喝」として受け取ってもらえればありがたいと思います。
また、本会見についてテレビなどのメディアは早急の対応を概ね好意的に評価していますが、これは業績も良く日本一注目度の高いトヨタであり、かつ会見の主が創業家出身で日頃から言動が注目されている豊田社長だからであるという点を割り引いて考慮すべきです。他社は絶対に真似すべきではありません。
驚き1
まず今回の事案は、ハンプ氏の個人的な犯罪容疑であり、2009年に米国で起こった同社の大規模リコール問題とは本質的に異なります。リコールは経営の根幹に関わりかねない経営問題であり、経営トップは捜査当局とは別に市場に対して、早期の段階で事実関係について説明責任を果たさなければなりません。
しかし、今回はあくまでも個人的な犯罪容疑であり、しかも捜査段階のため事実関係がよくわからない段階なので、所属企業のトップが具体的に言及できる内容は少ないはずです。実際に会見をみてもそうでした。したがって、あの時点ではメディアに対して資料を配布するなどの「コメント対応」でよかったのではないでしょうか。会見に臨むことで、不用意な発言をしてしまうリスクさえ懸念される場面でもありました。
驚き2
豊田社長が役員を含む従業員を子どもに喩え、その擁護と行動に対して責任を明言した点も異例でした。トヨタには全世界で約40万人の社員がいますが、業務外での個人的なトラブルについてまで経営トップが責任を負わなければならないのでしょうか。一部の人に対しては「社員に温かい会社」という演出効果はあったようですが、日本を代表する会社の経営トップが、この局面で示す意思表示としては妥当ではありません。