例えば、アクサダイレクトは昨年3月、主力の死亡保険の保険料を期間限定で20~30%値下げ、ネット生保業界最安値にした。すると、その2カ月後の5月にライフネットが同保険の保険料平均7%の値下げで対抗。業界の草分け同士が最安値競争を展開した。
一方、楽天生命保険は昨年11月、無料のがん保険発売で新規契約件数拡大を図っている。これはネット通販「楽天市場」のゴールド会員以上を対象に、保険期間1年のがん保険を無料提供するというもの。保険料は親会社の楽天が全額負担する仕組みで、楽天グループらしい奇抜な販促策を展開している。ネット生保関係者は「半年で加入者が10万人を超え、楽天生命の数字上の新規契約件数拡大に貢献している。ただし、保険料が有料になる2年目以降、どれだけの会員が再加入するかは予測不能」という。
「過当競争の渦中でライフネットは、自ら業界の同質化競争に飛び込み、パイオニアとしての存在感を失ってしまったと指摘する声も聞こえる。加えて、保険料に敏感で、自らネットで保険商品を比較して加入を決める『ネット生保ユーザ』を刈り尽くしてしまった可能性もある」(同)
ライフネットは「生命保険をもっとわかりやすく、生命保険料をもっと安く、生命保険をもっと手軽で便利に」の経営理念を掲げ、複雑な仕組みの特約がない「単品」をシンプルな価格体系で販売してきた。営業経費を圧縮するため対面販売は行わず、商品説明はウェブサイトとコールセンターで行ってきた。
「実際の保険選びでは年収、家族構成、子供の年齢などによってニーズは千差万別。また、複雑な仕組みを排除した『単品』でも、消費者の知りたいことはさまざま。それをいくらサイトやコールセンターで説明しても、消費者にとっては腑に落ちない場合が多い。フラストレーションがたまるケースもある。生保は、対面説明でしか消費者の納得を得られない部分がある。したがって『365日24時間いつでもどこでも』のネット販売の利便性と低価格の訴求だけでは、獲得できる契約者に限界があるのは当然」(別のネット生保関係者)
社会的信頼性という壁
そうした中での、今回のKDDIとの提携。通信業界関係者は「ネット金融事業を強化したいKDDIは、かねてから独立系のライフネットを狙っていた。通信業界内には、今回の提携はライフネットを子会社化するための布石との見方もある」と話す。
一方、ライフネットの出口治明会長は2月5日付日本経済新聞で、同紙の取材に対し、次のように述べている。
「経営の一番の悩みは社会的信頼性の低さだった。ネット証券やネット銀行は瞬時に取引が終わるし、ネット損保の自動車保険でも契約期間は1年。対して、生保の契約期間は長ければ終身、短くても10年。それゆえ、社会的信頼性がなければ商品は売れない。テレビ広告で社名は売れても信頼は売れない。この信頼をどうすれば高められるのかとずっと悩んでいた」
ライフネットは、パイオニアならではの塗炭の苦しみを乗り越えることができるのか。生保業界に風穴を開けるためにも、同社は大きな使命を背負わされているといえよう。
(文=福井晋/フリーライター)