だがあまりにも非現実的な目標設定に投資家が警戒したのか、経営ビジョン発表翌日はユニチカ株の売りが殺到し、株価は年初来最安値の38円をつけた。
それはさておき、方向的には高分子事業の売上比率を現在の38%から50%まで伸ばす一方、利益率の低い繊維事業の売上比率を現在の44%から25%まで引き下げるなど、「脱繊維」を目指した事業ポートフォリオの組み替えを基本方針にしている。
海外売上比率も現在の14%から50%へと、急速なグローバル化も盛り込んでいる。
安江社長は5月15日の経営ビジョン発表の記者会見で、「存在感を示すためには3500億円程度の売上は当然の規模。これまで進めてきた構造改革で、利益を生み出せる経営基盤が整った。経営ビジョンは必ず実現する」と胸を張った。
これに対して証券アナリストの一人は、「90年以降の経営不振で膨らみ続けた銀行借り入れなどの有利子負債が、12年3月期末で1732億円に達している。売上高の1747億円に匹敵する規模だ。経営基盤の脆弱さは、ちっとも変っていない」と指摘している。
●育たないコア事業、中国製品の台頭
また、業界関係者は「売上高利益率が1%しかない繊維事業が売上の44.0%を占めている半面、売上高利益率が11.5%ある機能材事業の売上比率が8.6%にとどまっているなど、競争力のあるコア事業が育っていない」と指摘する。
売上比率を50%にと、ビジョンの目玉になっている高分子事業も、中身を見れば現時点で国内シェアの半分を握っているナイロンフィルムが柱。この頼みの製品も市況に左右されやすい上に、格安の中国製品が国内市場を席巻し始めている。
要するに「経営ビジョンは売上高や事業比率などの数値目標を掲げただけで、それを実現するための戦略がまったく見えない」(証券アナリスト)のだ。
それもそのはずで、「ビジョンを発表する以上は『わが社全盛時の3500億円程度の売上高を掲げないと示しがつかない』という安江社長の見栄が数値目標の唯一の根拠になっている」(前出の業界関係者)からだ。
こうした安江社長の「思いつき経営」に社内は先行きの見えない閉塞感に包まれ、社員の大半はやる気をなくしているという。
トップが広げた大風呂敷は、わずか数カ月で綻びを見せている。
(文=福井 晋/フリーライター)