3月に蘭NXPセミコンダクターズが米フリースケール・セミコンダクタを約118億ドルで、5月には米アバゴ・テクノロジーズが米ブロードコムを約370億ドルで買収することを発表した。
最大の驚きは、6月の米インテルによる約167億ドルでの米アルテラ買収だ。インテルは、自社のマイクロプロセッサにアルテラの集積回路を組み合わせることで、急拡大するデータセンター向けの半導体市場に攻勢をかける。
インテルのマイクロプロセッサはパソコン向けが主力だが、データセンター向けも収益の3分の1を占める。圧倒的強さを誇っていたパソコン向け市場は、スマートフォンやタブレット端末の台頭で急激に縮小した。モバイルへの対応が遅れる中、巨額投資で自社のポートフォリオを再構築する狙いだ。
相次ぐ半導体の巨額買収は、用途の多様化や隣接する技術の取り込みに加え、規模の拡大への意欲が背景にある。
「スマホの高機能化や自動車の電動化・電子化の進展で、半導体はコストを抑えながら、これまで以上に小型化や省エネ化を図った製品が求められている。研究開発や量産体制をしっかりとするには、一定の規模が不可欠になっている」(証券アナリスト)
“三流”中国企業の野望
半導体業界では“三流”にすぎない中国企業も動き出している。中国最大の半導体設計会社である政府系の紫光集団は、米マイクロン・テクノロジに総額230億ドルで買収提案を行った。
中国は、半導体の中でもデータ保存に使うメモリーチップの技術が弱い。今回の買収提案の背景には、国防機器などにも使用される半導体の国内供給力を強めたいという野望が見え隠れする。現在も協議中だが、米当局が技術流出に難色を示していることもあり、協議は難航しそうだ。
こうした動きは、日本も無縁ではない。NXPやアバゴは、ルネサスエレクトロニクスにも関心を示し、接触したとされる。ルネサスは官民ファンドの産業革新機構が大株主だが、いずれ株式を手放すことが確実視されているため、ルネサスは新たに手を結ぶ企業を探さなければならなくなる可能性が高い。
富士通とパナソニックのシステムLSI事業を統合した新会社・ソシオネクストは、政府系の日本政策投資銀行が大株主になっている。また、セイコーインスツルは半導体事業を分社化し、政投銀との合弁会社として新たに編成することを発表した。
欧米企業は巨大化し、中国企業は政府を後ろ盾に虎視眈々と日系半導体企業の買収を狙っている。日本の半導体メーカーは、生き残ることができるだろうか。
(文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト)