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賃金不払い、長時間休憩なし…あの有名塾、過酷労働を講師が告発!労基署も是正勧告

文=横山渉/ジャーナリスト

 学生アルバイトにサービス残業をさせたり長時間労働を強いたりする「ブラックバイト」が、社会問題として深刻化している。弁護士やNPOも加わる「ブラック企業対策プロジェクト」が昨年7月、全国の27大学に通う学生に調査したところ、職場で「不当な扱いを受けた」と答えた学生は7割弱に達した。

 さらに今年3月、厚生労働省が全国の労働基準監督署の指導実績を調べたところ、学習塾業界のブラックな実態が浮かび上がった。講師の学生アルバイトらに授業前後の準備時間に対する賃金を支払わないなどの法令違反で、是正勧告を出したケースが複数あったのだ。

賃金不払い

 個別指導塾「森塾」のアルバイト講師Aさんは8月24日、労働組合・個別指導塾ユニオンを通じて、運営会社の湘南ゼミナールに団体交渉を申し入れた。Aさんは私立大学1年の男子学生(19)で、今年3月から神奈川県内の教室で働き始めた。出勤するのは、ミーティングや準備のためにいつも授業開始の20分前。授業の合間や授業の後も、生徒の見送りやミーティング、報告書記入などが義務付けられている。1日6時間以上働く日もあるが、まったく休憩が取れない状態だ。日によっては15時頃から22時過ぎまで、何も食べずに働くこともあるという。

 授業をするには資料作成やコピーなどさまざまな準備が必要だが、授業時間以外に対しては給料が支払われていない。バイト代は授業1コマ80分当たり1500円だが、そうした不払いの時間まで入れて時給計算すると、「神奈川県の最低賃金を下回ってしまうのではないか」(総合サポートユニオン執行委員・青木耕太郎氏)という。

 小学生は1コマ45分授業だが、その賃金がいくらなのか、正式な契約書がないために正確にはわからない。「80分1500円から1分当たりのバイト代を算出して、その45分ぶんではないか」とAさんは話す。さらに、深夜割り増しがなく、補習授業へのバイト代も一部不払いになっているという。

「私自身が中学から高校まで4年間、森塾に通ったこともあって思い入れがあり、バイトを始めました。ブラックな実態に気づきましたが、やりがいを感じて働いています。友人にも声をかけ講師になった人もいますが、彼らに申し訳ない。私が辞めれば済む話でもなく、業界全体の労働条件を改善してほしい」(Aさん)

 湘南ゼミナールは「湘南ゼミナール」「森塾」「スタディ・ナビ」などの名称で神奈川、東京、埼玉、千葉で約200教室を運営している。団体交渉の申し入れには応じており、今後、話し合いが行われる予定だ。

 昨年8月1日、ブラックバイトで困っている学生を支援する労組として「ブラックバイトユニオン」が発足して以来、相談は1年で732件に達した。そのうち約3割の284件が学習塾業界で働く学生からだったという。ユニオンのスタッフらもこの学習塾業界の実態は想定外だったようで、今年6月4日に個別指導塾ユニオンの相談窓口をあらたに開設したという。

労基署が是正勧告

 個別指導塾ユニオンは今年6月上旬、個別指導塾最大手「明光義塾」を展開する明光ネットワークジャパンと、茨城県を中心にそのフランチャイズ教室を展開するワールドオーエーに団体交渉を申し入れた。10年9月からワールドオーエーと契約してアルバイト講師を始めた大学院生のBさんは、1コマ数十分の授業に対して賃金を支払う「コマ給」という仕組みに疑問を抱き、同ユニオンに相談した。

 Bさんの賃金は1コマ90分1600円だが、授業開始20分前に教室に入ることが義務付けられており、その分の特別手当として、250円が支払われていた。しかし、学生によっては特別手当が200円だった人もいて、この特別手当を賃金だとすれば時給換算での600円は最低賃金を大幅に下回ることになる。つまり、この特別手当の位置づけが不明朗だったのである。

 さらに、22時以降に働いたことがあるにもかかわらず、深夜割り増しが支払われなかったという。BさんもAさんと同じように、書面での労働条件が交付されていなかった。同ユニオンによれば、6月と7月に計2回、団体交渉を行ったが、2社ともBさんや全講師に対する違法行為を認めていなかったという。

 Bさんは働き始めて1カ月経った頃、塾の責任者に賃金制度の不明朗さを指摘して、バイトを辞める旨伝えたという。責任者は「どうして講師をやるの」と質問してきた。Bさんは「子どもに教えるのは好きだし、勉強にも自信がある」と答えたところ、「だったら、お金は関係ないでしょ」と半ば逆ギレ気味で言われたという。Bさんはその剣幕に押されて「じゃあ続けます」と言ってしまった。塾業界はバイト学生の高いモチベーションとプライドにつけ込んで不明朗な労働条件を押し付けているのである。

 土浦労働基準監督署は8月7日付けで2社に対し、次の点が労働基準法に違反しているとして是正勧告を行った。

(1)所定の労働時間を超える労働の有無など、労働条件が明示されていない
(2)6時間を超える労働に対して、45分の休憩が与えられていない
(3)22時以降働いたにもかかわらず、深夜割増の賃金を支払っていない

 ちなみに労基署はコマ給そのものについては判断しなかったというが、同ユニオン事務局長の坂倉昇平氏は「コマ給という制度こそが元凶」と強調する。同ユニオンは8月27日にも2社と団体交渉を行い、坂倉氏はツイッターで次のように報告している。

「運営会社1社が労基署の是正勧告を受けたにもかかわらず、特に反省した様子は見られませんでした。労基署の指導だけでは、ブラックバイトは変えられない。明光義塾の改善に立ち上がる講師アルバイトが、1人でも多く必要です」
(文=横山渉/ジャーナリスト)

横山渉/フリージャーナリスト

横山渉/フリージャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。

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