「失敗した」「やらかした」と気付いても「あとの祭り」という経験は誰しもあるはず。しかし、それが新会社の社名で起こったとしたら、笑いごとでは済まない――。
横浜銀行と東日本銀行は2016年4月1日に経営統合を行い、新たに持ち株会社を設立する。その持ち株会社名は「コンコルディア・フィナンシャルグループ」。両行は「『コンコルディア』とは、『コン(一緒に、共に)』と『コルディア(こころ)』を語源としており、調和、協調を意味するラテン語。お客さまのために、グループ各社がこころをあわせて取り組んでいくという思いを込めています」と華々しく発表した。
しかし、実はこの新社名には大きな落とし穴があった。
イタリアのジェノバに本社を置く、コスタ・クルーズという会社がある。地中海、北欧、南米、カリブ海、中東、極東などでクルーズを行っている会社だ。12年1月13日、イタリアのチビタベッキア港を出航して、7日間の西地中海クルーズに出た同社のクルーズ船が、次の停泊地であるサヴォナ港へ向かう途中、トスカーナ州沖合のジリオ島付近の浅瀬に乗り上げて座礁した。このクルーズ船の船名が「コンコルディア」だったのだ。まさに新たな船出を迎えようとしている新会社の名前に、座礁した船の名前を付けてしまったのだ。
疑問を持つのは筆者だけではないだろう。多くの関係者がいながら、誰もコンコルディア号の座礁事件に気付かなかったのはなぜなのだろうか。それとも、座礁船だと承知の上で自らは船出する覚悟を決めたのだろうか。
「大蔵省銀行」
もっとも、両行の経営統合は事実上の政略結婚。横浜銀行の寺澤辰麿頭取は、1971年に旧大蔵省(現財務省)入省。国税庁長官を経て04年に退官し、11年に横浜銀行の頭取に就任した。一方、東日本銀行の石井道遠頭取も74年同省入省で、寺澤頭取と同じく国税庁長官を経て09年に退官、11年に東日本銀行頭取に就任している。さらに、東日本銀行の鏡味徳房会長は、65年に同省に入省し、大蔵省関税局長を経て退官後、01年に同行頭取に就任した経緯を持つ。つまり、両行とも「大蔵省銀行」なのだ。
現在、金融庁が地方銀行再編に積極的になっており、今回の経営統合は、各地銀の背中を押すための財務省・金融庁による人身御供のようなもの。お上の強い後ろ盾があるから、新会社に座礁した船の名前を付けても自分たちが座礁することはない、という強い自信の表れなのだろうか。
ちなみに、コンコルディア号には43人の日本人が乗船していたが、全員無事だったそうだ。コンコルディア・フィナンシャルグループの無事な航海を心よりお祈りして、擱筆することとする。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)