8月にバッテリーを強化した新型を発売し、9月には携帯モードに特化した廉価版を発売した「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」。2017年の発売以来、盤石の人気を誇るかのように見えるが、その地位は安泰なのか。スイッチ人気の理由と現状の課題について、ゲーム事情に詳しいコラムニストのジャンクハンター吉田氏に聞いた。
携帯に特化した「スイッチライト」が大ヒット
スイッチの販売台数が好調だ。国内累計販売台数は約949万台(2019年10月時点、ゲーム情報誌「ファミ通」調べ)を記録。さらに、スイッチと携帯型の「Nintendo Switch Lite(ニンテンドースイッチライト)」の北米での販売台数も合計1500万台を超え、世界累計3687万台を売り上げている。
かつて任天堂から販売された「Wii U」(1356万台)、「NINTENDO 64」(3293万台)、「ニンテンドー ゲームキューブ」(2174万台)の最終販売台数を上回っており、スイッチは成功を収めているゲーム機といえるだろう。
スイッチの好調を後押ししたのが、手軽に携帯できるスイッチライトの発売だ。9月20日に発売されたスイッチライトの販売台数は、発売から3日間で17万7936台を突破した。この携帯専用機が発売された経緯について、吉田氏はこう語る。
「もともと、スイッチは家でも外でもプレイできるというコンセプトでした。しかし、実際は家で据え置きにしている人も多かった。そこで、最初のコンセプトに戻すために、携帯に特化したライトを発売したようです。そのほかにも、近年では業界のメインとなっているスマホゲームに対して、携帯ゲーム機のパイオニアとしてのプライドもあったのかもしれないですね」(ジャンクハンター吉田氏)
ただし、そのコンセプトが浸透しているかどうかは疑問だという。
「その意気込みのわりには、スイッチを外で遊んでいる人は少ないですね。スマホよりもサイズが大きいし、外で遊んでもらうために無理にバッテリーの容量を増やしたため、重さもある。ただ、ジョイコンの不具合が改善されたのは喜ばしいことです」(同)
スイッチに潜む弱点とは
課題もあるものの、スイッチシリーズの人気はその販売台数に表れている。しかし、吉田氏は盤石に見えるスイッチの弱点を指摘する。
「スイッチならではの新しいタイトルが出てこないんです。任天堂のお家芸ではありますが、既存の人気タイトルのシリーズものかリメイクものばかり。最近のヒット作の『スプラトゥーン』も、もともとはWii Uで発売されたものですし、いまだにWii U版を好むファンがいます。任天堂が新規IP(IP=知的財産/完全新規タイトルの意味)でスプラトゥーン以降の大型ヒット作がないことが、スイッチの寿命を縮めてしまうかもしれません」(同)
任天堂は、いまだに「マリオ」や「ゼルダ」といった人気シリーズに頼っているということだ。それでもシリーズを刷新するような新機軸が打ち出せればいいが、多くは過去のデザインを踏襲したものばかりでマンネリ気味の感が否めない。
ゲーム内容をいじれないなら物量で勝負と、登場キャラクターのボリュームで勝負した「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」は累計300万本を超える大ヒットとなったが、逆に「キャラは多いけど、ゲームをやりこまないとそれらを使えるようにならない」(同)というシステムに苦情が殺到しており、初心者が離れる結果になっているという。
また、「任天堂のゲーム開発力そのものが落ちてきている」という指摘もある。かつて斬新なゲームを次々と生み出し、任天堂の礎を築いたデザイナーの宮本茂氏が今はゲーム開発の一線から退いており、2020年にユニバーサル・スタジオ・ジャパンにオープン予定のテーマパーク「SUPER NINTENDO WORLD」に注力しているという。
「任天堂以外のゲーム制作会社が、スイッチにはあまり参入していない。そうなると、任天堂社内での開発が大事になってきますが、こちらも外部委託が増えているようで、社内の開発そのものが少なくなってきている。それらの問題が、今後の懸念点ではありますね」(同)
後発のサブスクサービスが人気の理由
こうしてみると、斬新で魅力的なソフトが少ないスイッチは今をピークにジリ貧の様相を呈していくようにも思える。また、ライバルと目されているソニーは来年の年末に「プレイステーション5」の発売を予定しており、スイッチの地位が揺らぐことになるのではないだろうか。
「任天堂のゲーム機はあくまでファミリー向けで、PS陣営とはユーザー層が違いますから、ソニーの動向はそこまで影響はないでしょう。また、スイッチには新しいソフトこそ少ないですが、任天堂の経営的には問題ないようです」(同)
任天堂は昨年9月に、スーパーファミコンのタイトルが遊び放題になるなどのサブスクリプションサービス「Nintendo Switch Online」を開始しており、会員数が今年4月時点で980万人、年間売上高も単純計算で約352億円と連結売上高の3%程度を占めている。
「ユーザーは、かつてのレトロゲームをプレイするというよりも、スプラトゥーンなどの対戦ゲームをオンラインでやるためには加入が必須なので、仕方なくサービスに金を払っていると思います。オンラインで遊びたいユーザーは世界中にいるため、安定した収益が見込めます」(同)
ソニーは2010年から定額制オンラインサービス「PSプラス」を開始しているため、任天堂のサブスク参入は出遅れ感も否めないが、「サービスの質は申し分ない」と吉田氏は話す。
「レトロゲームで、プレイ中の巻き戻し機能やいきなりフル装備で始められる機能を実装するなど、他社のサービスに引けを取らない仕様になっています。同サービスで任天堂はかなり柔軟に機能を取り入れているので、ユーザーの満足度も高いのではないでしょうか」(同)
サブスクのビジネスモデルを柔軟に取り入れ、一方で無駄な開発をせず既存のIP商材で安定化を図る、任天堂の経営戦略。予想外の大ヒットは生まれなさそうだが、スイッチを含めて、しばらくは盤石の態勢が続きそうだ。