新型コロナウイルスの感染は「新たなフェーズ」に入ったのか。政府の新型肺炎の専門会議は17日、病院への受診や相談の目安を公表した。それに先立つ16日の専門家会議後の会見で、同会議座長の脇田隆字・国立感染症研究所長は「なるべく感染しないような行動が必要だ」と、テレワークの促進や時差出勤、不要不急の外出を控える必要性に関して言及し、国民に対して一層の注意を呼び掛けた。
ところが菅義偉官房長官は17日午前の会見で、「専門会議で、感染拡大を防止するために大規模な集会・イベントを自粛すべき、との意見は出なかった。開催の判断は基本的に主催者が行うべきもの」(17日付ロイター日本語版『専門家から大規模イベント自粛求める意見出ず=官房長官』)と述べた。
天皇誕生日の一般参賀も中止
これに前後して、NHKは17日、「宮内庁が今月23日に予定されていた即位後初めての天皇誕生日の一般参賀を新型コロナウイルスの国内での感染拡大を考慮して取りやめる方針を固めた」と報じた。また3月1日に東京都内で開催が予定されている「東京マラソン2020」について主催の東京マラソン財団は、一般参加者の出場を取りやめる方向で検討を開始。エリート選手ら約200人で実施するという。
政府がいくら旗を振っても企業は動かず
大規模イベントの開催をめぐり主催団体や企業の判断力が問われている事態だが、Twitter上では次のようなぼやきの声がちらほらみられる。
「不要不急の外出控えて、かあ。熱が出ても仕事行って拡散したであろう普通の日本社会人が外出しないで済むおふれを出してくれないとな。政府は、こんな言い方で『外出するなと言ったのに国民が聞かないから拡散した』とか言い出すなよ?休校も、休業手当も、やってる国はやってるんだからね?」(原文ママ、以下同)
「『不要不急の外出しないで』
『でも、マラソンも聖火リレーもオリンピックも予定通り行います』
『それでも、感染はしないで!お願い!』
お願いするな。感染しない様に環境を整えてくれ。色々、中止するとかして」
「国が不要不急の外出は控えろと言っても、企業はそんなこと知らないから出てこいになるわけだし、国の言うとおりにしていたら、クビを切られて金を得られなくなるリスクが高くなる。国が企業に強く言わないのが何でも問題なのよ」
感染者発覚のNTTは?
では企業はどのように今回の事態を乗り切ろうとしているのか。
NTTデータは先週、協力会社の男性従業員が、新型コロナウイルスに感染したと発表した。同社広報部が14日に公開したプレスリリースを見てみよう。
「当社拠点ビルに勤務している協働者1名が新型コロナウイルスに感染していることを本日確認しました。本件を受けて、社員の健康と事業継続を保てるよう本社対策本部を設置し、所管保健所と連携を図り対応を進めてきました。その結果、感染者の当社拠点ビルにおける行動履歴と、14名の濃厚接触者が保健所によって特定されております。
感染者が発生したビルに対しては、本日時点で以下の対応を取っております。
・当該ビルおよび周辺3拠点の関連部門に勤務する社員/協働者の在宅勤務指示
・当該ビル居室の消毒作業の実施
なお、感染者の当社拠点ビルにおける行動履歴ならびに、濃厚接触者の特定がされたことから、2月15日(土)以降については、濃厚接触者を除き在宅勤務指示を解除するとともに、濃厚接触者への14日間の在宅勤務指示を行うこととします」
この事態を受け、NTTグループは国内のグループ企業で働く従業員20万人にテレワークや時差出勤を呼びかける方針を発表した。感染者が一人でも発生すれば、オフィスの消毒と濃厚接触者の在宅勤務は必須になる。事実上の業務停止だ。そして、濃厚接触者が多ければ多いほど業務停止の幅は広がる。
出社せずに自宅に引きこもって、仕事を行うことができれば良いのだが、テレワークができていない事例もあるようだ。大手電機メーカーに勤める40代男性社員は次のように語る。
「武漢ではないですが、社内には中国から帰国した社員が複数、せき込んでいます。風邪気味の人間はテレワークするように言われていますが、年度末ということもあって職場はおかしなテンションです。Slackなどのビジネスチャットやスカイプのテレビ会議などを導入しているのですが、上長が何かあるたびに頻繁に電話をかけてくるので意味がなく、いつものメンツで顔を突き合わせて仕事をしています。誰かが倒れるまで続く、たちの悪い“我慢大会”です」
また、30代の大手家電メーカーシステムエンジニア男性は次のように語る。
「家にいれば妻から『私や子どもにうつさないで』と言われるので居場所がない。結局、多少、風邪っぽくても会社に来ています。実際、近くで濃厚接触者が出て、自宅待機を言いつけられたらどこで待機していればいいのかわかりません」
日本企業のビジネスパーソンの悲哀か。もはや新型肺炎の感染爆発は避けられないのかもしれない。
(文=編集部)