日本経済団体連合会(経団連)の中西宏明会長がダボス会議出席で海外出張を復活させ、その後も海外出張が続いていたからでもあるが、調整がつかない理由があり、副会長人事の内定が遅れた。
銀行枠(現在は三井住友フィナンシャルグループ<FG>の國部毅会長)の後任は、そのまま三井住友FGから出すとみられていた。一部には國部氏の続投が取り沙汰されていたが、みずほFGの佐藤康博会長が副会長就任に執念を燃やしたので遅れた。結局、佐藤氏は粘り勝ち、副会長のポストを射止めた。一方、三井住友FGも太田純社長が副会長に就任する。この結果、三菱UFJFGの平野信行会長を含め、3メガバンクから副会長が出ることになった。
「なんで3人も雁首をそろえるのだ」(製造業の有力企業のトップ)
注目の商社枠(現在は三菱商事の小林健会長)については、「やはり三菱商事か三井物産を入れたい」との意向が中西会長の周辺で強く、三井物産の安永竜夫社長が“当確”となった。副会長の椅子獲りに熱心だった丸紅の國分文也社長は「丸紅クラスでは弱すぎる」(関係筋)という判断に傾き、脱落。「三菱商事、三井物産が引き受けなければ伊藤忠」(同)という落としどころとなったが、最終段階で三井物産が引き受けたため、伊藤忠商事の岡藤正広会長が就任する線は消えた。
丸紅は昨年央からのマスコミ辞令で先行したが、力不足だったようだ。伊藤忠の岡藤会長も「今度こそとの思い」(岡藤氏の周辺)があったようだが、三菱・三井の厚い壁を突き崩せなかった。会員制情報誌で「岡藤氏が最有力」といったヨイショ情報が流れたことがマイナスに働いたとの指摘も出ている。
三菱商事の垣内威彦社長は「本業優先、本業に専念し、利益で業界トップを死守する」との思いが強く、小林会長から垣内社長へのバトンタッチは実現しなかった。三菱商事は商社枠をいったん手放したことになる。
消費者に近い企業からは副会長は選ばれなかった。アサヒグループホールディングス(HD)の泉谷直木会長は本人は前向きだったが、「難色を示す人が多かった」(関係筋)。セブン&アイHDの井阪隆一社長は「断ったといわれている」(同)。これで伊藤家への大政奉還は最低でも1年、先送りとなる。「創業家の伊藤雅俊さんに遠慮したのではないか」と言う経団連関係者がいるが、それはない。米コンビニ、スピードウェー(2.5兆円規模)の買収に全力投球というより、井阪氏自身の手でコンビニ事業を立て直すという思いが強いからではないか。経団連の副会長など、やっている余裕はないということだ。
副会長の椅子に執着するみずほFGの佐藤会長
審議員会副議長だった三井不動産の菰田正信社長の横滑りとなった。三菱グループ(三菱電機、東京海上日動火災保険、三菱UFJFG、三菱ケミカルHD)からは現在、4人も副会長に就いている。三井不動産、三井物産から副会長を出すことで、三井・三菱のバランスを取ったとの見方もできる。
副会長の任期は2期4年。3月9日の会長・副会長会議で内定し、6月の定時総会を経て正式に就任する。
それにしても、これほどまで経団連副会長の椅子に執着する経済人は、みずほFGの佐藤会長以外にはいないのではないか。
「佐藤さんが経団連副会長にならなければならない理由が、グループ内にあるのではないか」(メガバンクの若手役員)
毎日新聞が2月27日付朝刊で、フライング気味に佐藤氏が経団連副会長に内定したと報じたため、翌日に日本経済新聞と読売新聞が4人の“内定”を後追いする格好になった。ただ、毎日は佐藤氏の副会長就任だけを書くといいう変則な“スクープ”をした上に、筆者が調べた限りでは28日付朝刊ではまったくフォローしていない。毎日の報道は「既成事実をつくるための作戦。それとも書かせて潰すという高等戦術」と財界で少し話題になった程度のインパクトしかなかった。というより、経団連の副会長人事そのもののニュースバリューがなくなったということだ。
(文=有森隆/ジャーナリスト)