2020年は銀行預金者受難の年となりそうだ。まず近いところでは、3月からみずほ銀行が振込手数料を改定すると発表している。ATMで現金またはキャッシュカードを使って自行の同一店および本支店に振り込みを行う際の手数料が値上げになるのだ。値上げ幅は110円。
それを聞くと、ずいぶん無茶な……という気がするが、さにあらず。3大メガバンクのうち、ほかの2行を同一条件で比べてみると、実はこれまでみずほが安かったのだとわかる。ATMで現金を使っての振込手数料は、3月の段階でやっと横並びになるだけなのだ。
しかし、見過ごせない値上げも実はある。ATMでキャッシュカードを使って振り込む場合がそれだ。みずほの同一店へ振り込む場合の手数料は、改定前は無料だったのが、いきなり220円もかかることになる。同じ条件で見れば、三菱UFJ銀行や三井住友銀行は、同一支店は無料、本支店へは110円だから、飛び抜けて高い。さらに他行あての3万円未満の振り込みも330円と、これまたライバル行より高く設定した。
また、手数料の優遇などが目玉だった「みずほマイレージクラブ」の判定基準および特典内容も変更する。これは、近々の2020年1月末の利用状況が対象になる(特典内容の変更は3月1日より)。これを見ると、こちらでも振込手数料無料特典はみずほダイレクトの利用時のみで、ATM特典は終了に。
さらにびっくりしたのが、無料で利用できるコンビニATMの対象から、セブン銀行とローソン銀行が外れたことだ。セブン銀行が無料で使えなくなるのなら、マイレージクラブのサービスに果たして魅力はあるのだろうか? 3月からは、無料で使えるコンビニATMはイーネットのみだそうだ(利用状況に応じて月1~3回まで無料)。現在、セブン銀行で下ろしているという人は注意しよう。
口座管理手数料の衝撃
みずほ銀行の振込手数料の値上げ、そして無料で使えるコンビニATMの激減は、むろん口座保有者にとってはサービスの改悪だ。こうした銀行をめぐるネガティブニュースに事欠かない昨今でも、かなりの驚きをもって報道されたのが、三菱UFJ銀行が検討しているという口座管理手数料の導入だろう。
口座管理手数料というと、すべての口座にかかると思いがちだが、本件の場合はそうではない。2年間入出金などの動きがない「不稼働」のものに限り、年間1200円の手数料を差し引くという。毎年手数料を引き続け、残高がゼロになった時点で自動解約になるという仕組みだ。
同様の口座維持手数料は、りそな銀行や地方の信用金庫などですでに採用されている。2004年から導入済みのりそなの場合、最後の出し入れから2年以上、一度も預け入れまたは払い戻しがない普通預金口座が「未利用口座」となる。ただし、残高が1万円以上、あるいは同一支店に普通預金以外の金融資産(定期預金、財形預金、投資信託、外貨預金、国債など)が1円以上ある場合などは対象外だ。
未利用口座の対象になると、まず文書で通知が届く。その文書を出してから一定期間(約3カ月)以内に出し入れ、あるいは解約の手続きをしないでいると、未利用口座管理手数料1320円(税込み)の引き落としが開始されるという流れだ。
もし三菱UFJが導入するとすれば、同じような手続きになると想定される。ただし、不稼働口座の対象になるのは、この制度が導入されて以降に新規開設された口座に限られる。今ある口座すべてが対象というわけではなさそうだ、少なくとも現段階では。
銀行口座を解約するには?
不稼働口座に似た騒ぎで言えば、2019年から発生している「休眠預金」もあった。こちらも10年間出し入れなどがない預金を公益活動に充てる資金として活用しましょう、というもの。主旨は違うが、銀行としては、とにかく使われない口座にかかるコストを減らしたいし、これを機会に口座保有者に解約手続きを進めてほしいのだろう。
では、解約したいときの手続きから説明しよう。休眠預金の際に、筆者が行った体験をベースに説明していく。まず、銀行の合併により、通帳に書いてある銀行名が今どうなっているか不明の場合は、全国銀行協会の「銀行変遷史データベース」で調べるといい。現在引き継いでいる銀行がわかれば、そのホームページに行って「長い間使っていない口座」等を検索すると、手続きが載っている場合もあるし、なければカスタマーサービスなどに問い合わせよう。メガバンクの場合は、最寄りの支店で解約手続きができることが多い。
手続きに行くなら、とにかく関係ありそうなものを全部持っていくほうがいい。通帳、キャッシュカード、印鑑(銀行届出印が望ましいが、どれかわからない場合は別の印鑑でもいい。再登録するために必要になる。旧姓でつくった口座なら現在の姓の印鑑も)、本人確認書類(現住所がわかるもの。女性で姓が変わっている場合は戸籍抄本も取っておく)など、二度手間を防ぐために用意できるものは全部だ。
また、古い口座を開いたときの住所を聞かれることがあるため、昔の住所録や当時の年賀状が残っていれば、それもあるといいかもしれない。これだけ揃っていれば、口座の現在の状況や残高がいくらあるかは調べてもらえるはずだ。
ただし、口座を開いた支店そのものがなくなっていたとすると、本部へ照会するために少し時間がかかることもある。筆者の場合も、古い口座のひとつが今は存在しない支店のもので、どこの支店に口座が移ったかすぐに判明しなかったため、その日は帰宅し連絡を待つことになった。そうやって調べてもらってわかった残高を引き出すにも、届出印が手元になければ新しい印鑑を登録し、それを使って下ろすという手続きが必要となる。解約するにもなんだかんだと手間と時間はかかるのだ。
なお、解約せずに口座を復活させる場合は現住所に変更したり、既婚女性が独身時代の口座を使うなら氏名変更および印鑑の変更もしなくてはならない。やたらと何枚もの書類を書き、やっとゴールにたどり着ける。筆者は記事を書く目的もあって実行したが、普通の人はかなりへこたれるだろうし、そもそも平日の銀行窓口にのんびり出かける時間などあるのかが疑問である。
保有口座がどんどん増えていく現代社会
今回の口座管理手数料問題は、マイナス金利の影響で銀行が稼ぎにくくなったとか、使っていない口座の維持コストがバカにならないとか、いろいろ言われているが、それは我々利用者のせいなのだろうか。
そもそも、積極的に自分から○○銀行に口座を開きました、という人は少数派だろう。アルバイト先、勤務先、家賃の支払いのためにと、その銀行と支店を指定されたから、自然と増えていったはずだ。
筆者も、当時勤めていた会社に給与振込口座のほかに経費精算用の口座をつくれといわれ、指定された支店に社員全員がつくらされた。さらに転職先でも同じことが起き、給与振込先が三菱UFJ銀行だというのに、同行の別の支店で新たにつくれという。そのせいで、結局同じ銀行に4つくらいの口座があるが、自分で開いたのは大学時代のひとつだけだ。
同じ銀行のはずなのに、融資先との関係が支店ベースだからという理由で、どんどん口座が増えていくのが日本社会の現状だ。これをユーザーが口座を解約せず放置しているのが問題だ、住所変更もろくにせずに怠慢だから口座維持手数料を取ります、というのはどうにも解せない。
銀行は口座維持コスト云々を言うなら、いっそ支店をなくして今後は通し番号にしたらどうなのか。それなら同行内で口座もひとつ、通帳もひとつで、口座売買も防げる。ウィンウィンでみなハッピーではないか。どうせ近い将来マイナンバーで名寄せをするつもりなのだろうから、銀行側もシンプルな設計に変えてはいかがだろう。そういう改革なら、我々のほうには不利益なく、何も困らないのだから。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)
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