もちろん、旧NECエレや富士通に「フラれた」後も、水面下でシステムLSI切り離しに向けて出口戦略を模索し続けた。一昨年末からはルネサスと交渉。ただ、東日本大震災後に急速に業績が悪化するルネサスは統合を急いだが、あくまでも東芝は条件次第。しびれを切らしたルネサスは、昨年頭に富士通、パナソニックに交渉相手を変えた。
完全に事業立て直しの機を逸したように映る東芝だが、電機業界担当のアナリストの評価は低くない。「収益性は改善している。最大の固定費である工場の生産能力も徐々に縮小し、外部への委託を増やしている。ソフトランディングが見えてきたのでは」と語る。
●下手に統合に動かなかったのが奏功
実際、東芝のシステムLSI事業は年間数百億円の赤字を出していたが、ここ数年は多くても数十億円の赤字幅。業績面で「身ぎれい」になったところで、工場の売却に動くのではとの観測は根強い。東芝幹部は「システムLSIからの撤退はないが、生産は自社では行わないモデルがベスト」と工場売却の意思を隠さない。関係筋によると主力の大分工場の買収に複数社が興味を示しており、交渉の機会がすでに持たれているという。前出のアナリストも、
「事業部門との温度差は大きいが、佐々木則夫社長を含め、経営陣は条件面さえ整えばすぐにでも売却する考えだと聞く。下手に統合に動かなかったのが奏功した」
と評価する。
●ルネサス・富士通、事業統合でも工場の問題はそのまま
一方、ルネサス、富士通、パナソニックの交渉は難航。ネックとなったのは工場の売却先探しだ。「3社は自社の工場をなんとか処分したいが、3工場も引き取ってくれる先はいない。過剰な生産設備に目をつぶったままの統合では、単なる不採算事業の寄せ集め」(ルネサス社員)といわざるをえない。
実際、2月1日の一部報道では、富士通、パナソニックがルネサス抜きの統合で調整に入ったと報じられた。前出のアナリストは、
「結局、ルネサスと富士通がそれぞれ工場売却にこだわったが、工場の引き受け手はおらず、交渉は決裂したのでは。統合頼みだったルネサスが窮地に陥るのはもちろん、富士通、パナソニックも工場の問題を抱えたまま」と話す。
半導体再編で最後の最後に笑うのは、ひょっとすると東芝なのかもしれない。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)