「中食(なかしょく)」という言葉が世間に浸透して久しい。「外食」と、家庭内で調理したものを食べる「内食(うちしょく)」の中間に位置し、スーパーやコンビニエンスストア、百貨店などで惣菜や弁当といった調理済みの食品を購入して持ち帰り、自宅や職場で食べることを表す言葉である。
楽天リサーチ株式会社が2014年に調査したところ、中食の利用率は57%に上り、2人に1人が使用しているという結果だった。自炊や後片付けが億劫であったり、そもそも料理が苦手であったりする人にとって、中食は実に手頃な選択なのだろう。
しかし、当然ながら「便利」をお金で買うことの代償としてデメリットもある。消費者は、使われている食材や調味料の正確な詳細情報までは把握できないため、体によくない原材料が使用され健康が害されている可能性も否定できない。東京都内在住の男性Aさん(30代)は語る。
「大手チェーンのスーパーマーケット、西友のある店舗で、20~21時頃に惣菜コーナーの鶏の唐揚げを購入し帰宅後すぐに食したところ、食後2時間ほど経過してから下痢を起こしてしまいました。その後、同じ店舗で1週間に1回くらいのペースで計3回、鶏の唐揚げを購入したのですが、同じように下痢になってしまいました」
今回の西友の事例に特定せずあくまで一般的な話として、こうした惣菜が原因と考えられる下痢の原因について、加工食品ジャーナリストの中戸川貢氏に解説してもらった。
原因は調理時・調理後の油の酸化?
「もっとも可能性が高いと思われる原因は、唐揚げに使われた油の酸化でしょう。油の毒性うんぬんという話ではなく、単純に酸化した油というのは非常に消化がしにくいものに変わってしまうため、腸がうまく吸収できず、異物だと判断して下痢を起こしてしまったということが考えられます。
たとえば大手フライドチキンチェーン店ですと、『○回揚げたら油を交換しましょう』というマニュアルが決まっています。また、居酒屋チェーン店などの外食産業で鶏の唐揚げを提供するときには、加熱油脂劣化度判定用試験紙というpH試験紙のようなもので油の酸化度を調べているのです。
ここで問題となるのは、果たしてその店舗は揚げ油をチェックしていたのか? という点です。もちろんきちんとしている店舗も多いのでしょうが、今回の鶏の唐揚げを購入したスーパーは、そういった油の管理が杜撰で、酸化した油が使われていたのではないかと推察できます」(中戸川氏)
そして中戸川氏は購入時間が20~21時頃だったことにも注目し、次のように続ける。
「唐揚げの調理後にかなり時間がたっている可能性もあります。その場合、揚げた後に長い時間が経過したことで酸化してしまったということも考えられます」(同)
サラダ油はミネラルを溶かしてしまう
しかし、もしその店舗がきちんと油を定期的に交換し、試験紙を使用して質のチェックも怠っていなかった場合、酸化が原因ではない可能性も出てくるだろう。
では、次に疑わしき原因はなんだろうか。
「脂肪過多の食事をした際、酸化していない油であるにもかかわらず下痢をしたなら、それはおそらくミネラル不足が原因です。ミネラルは油の消化と吸収、すなわち代謝に役立つのですが、これが惣菜に入っていないと非常に消化能力が減退するのです。食したものでミネラルが少量しか摂取できないときは、当然、体内に備蓄しているミネラルを総動員して消化しようとするのですが、それでも消化が追いつかず異物と判定されてしまうことがありますので、長く腸内に滞留させておくわけにもいかないからと体が判断して下痢が起こるのです」(同)
では、スーパーの惣菜の唐揚げにはミネラルがほとんど含まれていないということだろうか。
「スーパーの鶏の唐揚げには主にサラダ油が使われることが多いのですが、実はサラダ油はオリーブオイルやごま油と違い、油の濁り、臭い、酸化などを防ぐためにミネラルを化学的な処理ですべて抜いてあるのです。そんなサラダ油で揚げ物をすると、食材に含まれるミネラルは油に溶けてしまう。これは新鮮なサラダ油ほどその傾向が強く、つまり食物からミネラルが抜かれてしまうということなのです」(同)
いずれにしても使用する油に問題があった可能性が高いということのようだ。
栄養不足のリスクは添加物をも上回る
また、加工食品といえば、添加物や保存料が使用されているケースが多いが、これらが下痢の原因となった可能性はあるのだろうか。
「もちろん、添加物や保存料も下痢の原因の可能性はあるでしょう。特に普段は自然食品店で買った有機野菜を食べるなど、質のいい食材にこだわった食生活を送っている方は、添加物が原因で下痢をしてしまうこともあると思います。それは体内から悪い物質を早く排出しようとする防御機能が働くためです。
ですが、日頃から頻繁にスーパーの惣菜を利用しているというような方の場合は、添加物などに悪い意味で体が慣れてしまっており、腸が排出することをあきらめているので、添加物が原因で下痢をしてしまうという可能性は低いですね」(同)
最後に中戸川氏は、自身にとってもセンセーショナルだったという「中食」の衝撃的な実態を教えてくれた。
「調査を進めていき、私自身とても驚いたことなのですが、スーパーの惣菜やコンビニの弁当を摂取していて体を壊すことになる一番の原因は、実は栄養不足です。添加物や保存料、放射能や農薬といった悪いものが体に入るということよりももっと単純な話で、体の機能を維持するための栄養が不足してしまうのです。
ご存じの通り、スーパーの惣菜やコンビニの弁当には、カロリーは太るほど含まれています。要するにタンパク質も炭水化物も脂肪も山のように含まれているんです。ですが、その一方でビタミンやミネラルが非常に少なく、特にミネラルに関しては厚生労働省が定めている1日の目安の摂取量に到底届かないほど圧倒的に足りないという調査結果が出ています」(同)
自宅での料理の手間が省けるため中食を重宝している方も少なくないが、スーパーの惣菜などに依存した食生活を送っていると、体調不良を起こしてしまう可能性があることを知っておくべきだろう。
(文=森井隆二郎/A4studio)