大戸屋、なぜめちゃめちゃ美味い?客を幸福にする「スゴい」戦略、11年の試行錯誤
ブランディング
飲食店経営ではなく、ブランディングという視点から大戸屋について考えてみる。コンセプト(構え)は明瞭だ。あえて定食というDNAに縁遠い女性にターゲットを絞っている。女性の社会進出などの時流にも合致している。ちなみに、テーマに女性客とオーガニックを意識したコンビニエンスストアとしてナチュラルローソンが事業をスタートするのが2000年であるから、時代を先取りしていたといえるだろう。
フランチャイズ1号店を出店(03年)するまでに11年、ここからは想像だが、コンセプトをぶらさずに、現実のカタチにする取り組みは試行錯誤の連続であっただろう。そのなかで、現在のスタイルが確立されていく。
ブランディングは、消費者(聴衆)向けに映し出された映像の成果ではない。店内調理にしても、食材へのこだわりにしても、何よりもブランディングに実行部隊としての従業員のサービスが機能するまでの取り組みそのものがブランディングなのである。群雄割拠、超デフレ時代をくぐり抜けてきた大戸屋は、常にコストや人件費と対峙しながら、ストーリーを紡ぎあげてきた。
今では、珍しいことではないカロリー表示と塩分表示の徹底もそのひとつであろう。さらに、紹介した期間限定メニューには、魚や野菜など食材の産地や作り手の説明が加えられている。鰺フライでは、「長崎県松浦港で水揚げされた鰺を使用」。一本釣り鰹丼では、「鹿児島県枕崎産の鰹に、ピリ辛の青唐醤油を回しかけ、北海道・和田農園で栽培された長いも『ネバリスター』をとろろに添えて」とある。あのときメニューを読みながら、私は「ああ、この店は畑や海としっかりつながっているのだなあ」という印象を受けたことを思い出した。
約1時間弱のランチのなかで、舌とお腹を「満足」させて、頭の中で「納得」させる。だから、おひとり様でも十分に楽しめる。大戸屋の定食は凄いのである。
(文=山田まさる/コムデックス代表取締役社長、インテグレートCOO)