新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、在宅勤務の動きが拡大している。生産業や製造業、接客業、販売業では在宅勤務は無理だが、オフィスワークならパソコン1台で実現できそうに思える。だか、なかなかそうはならないという実情がある。すでに8割は在宅勤務に移行しているという都内の中堅企業で、毎日出社を続けなければならない社員からその理由を聞いた。
「経理をやっているんですけど、“印鑑”と“紙”で出社せざるを得ません。銀行振り込みをする場合、ネットバンキングでできたり、請求書を印鑑なしでやり取りケースも増えていますけど、どうしても銀行窓口に書類を持っていかないといけない手続きもあります。銀行では、必ず印鑑を押さないといけない。あるいは、源泉税とか住民税とかの納付は、振り込みとは違う準備が必要になってきますので、出社が必要になります。
紙で1番多いのは業者さんからの請求書です。月初には月末締めの請求書がたくさん来ますので、そういったものを受け取って開封して支払う準備をします。紙ではなくて、メールに添付して送ってくる会社もあります。ネット上のサービスで、そのサイトに上げた請求書を先方にダウンロードしてもらうというのがあって、これを導入している会社もあります。そのサービスですべて行えるなら、出社しなくてもいいんですけど、取引先にそれでやってくれとは言いづらいです。受け取るほうも発行するほうも言いづらくて、今まで通りずっと紙でやってるという状態です」
新型コロナウイルスの感染拡大の今、ペーパーレスに移行することはできないのだろうか。
「取引先にお願いすればやってくれるかもしれませんけど、とにかく取引先の件数がすごく多いんです。実際に発注している部署が協力してくれるかどうかも考えると、たぶんできないですね」
経理以外で、在宅勤務できない部署もあるのだろうか。サービス企業社員はいう。
「コールセンターがあるんですが、顧客から商品が届いてないとか、住所が変わったとか、購入を止めたいとか、電話とファックスで連絡が来るわけです。それを転送して家で対応してもらうという手も考えられますが、そうすると特定の人にだけ負担がかかってしまって、なかなか業務のバランスがうまく取れないということになります」
在宅勤務になった部署では、問題は生じていないのだろうか。
「問題ということではないですけど、営業はZoomとかのテレビ会議を使っているんですけど、それで商談がうまく行く人とそうじゃない人の差は出て来ています。これは普段の営業力とは関係ないです。会話のしかたとか資料の見せ方とか、テレビ会議特有のスキルがあるようです」(IT企業社員)
社内での感染対策は、きちんと行われているのだろうか。
「もともと社内の席はフリーアドレスだったこともあって、出社する社員が少なくなって、距離を取って座るようになっています。会社の入り口にはアルコール消毒液が置かれていますし、マスクも会社から配布されています」
緊急事態宣言が出されても、出社せざるを得ないさまざまな事情があるようだ。
(文=深笛義也/ライター)