JR東海のリニア計画では、27年に東京(品川)-名古屋間を開業、大阪までの延伸区間は45年に完成する。すでに東京(品川)-名古屋間では、14年10月に国の認可を得て、建設工事が始まっている。同区間の286キロを40分で結ぶ。総工事費は東京-名古屋間で5兆5000億円、東京-大阪までの全線で9兆円を見込む。
JR東海は、長期債務残高を5兆円以内にとどめるため、東京-名古屋を開通しても8年間は大阪延伸に着工せず、経営体力が回復した後の35年に着工する計画だった。政府の支援によって最速で37年の開業を目指すことになる。
安倍政権はリニア建設を国策として位置付けているが、民間企業のJR東海が主導してきた事業に対する国の関与の拡大は問題を残した。財務省や総務省は、リニア中央新幹線は民間の事業との見方から、慎重論が強かった。
しかも、これだけ公的資金を投入して、回収できるのだろうか。JR東海の山田佳臣社長(現・会長)は、13年9月の記者会見で「リニアは絶対にペイしない」という趣旨の発言をしている。
それにもかかわらず、安倍首相はリニア新幹線を国策に格上げした。葛西氏がリニア新幹線計画を主導しているからだろうか。JR東海は安倍首相の人脈をフルに使い、3兆円をほぼ無利子といっても過言ではない超低利で引き出したのである。
NHK会長は、JR東海の人事の一環
葛西氏は、古森重隆富士フイルムホールディングス会長とともに、安倍首相をバックアップしてきた経済界の中心人物だ。第一次安倍政権時代には、「四季の会」のメンバーである葛西氏は国家公安委員や教育再生会議議長、古森氏はNHKの経営委員会委員長に就いた。
第二次安倍政権の樹立に貢献した葛西氏は、安倍氏のブレーンとして絶大な権力を握る。
さらに6月28日、NHKの最高意思決定機関である経営委員会の委員長に、九州旅客鉄道(JR九州)の石原進相談役が決まった。石原氏は憲法改正を悲願とする安倍政権を支持する「日本会議福岡」の名誉顧問、原子力発電所の必要性を訴える「原子力国民会議」の共同代表を務めていたが、“不偏不党”をタテマエとするNHKの最高意思決定機関の委員長に相応しくないと思ったのだろうか。石原氏は両組織の役職を辞任した。
葛西氏が経営者として、その晩年に力を注いできたのがリニア中央新幹線。JR東海が「単独でやる」と啖呵を切ったリニア新幹線に、国はゼロ金利に近い超優遇策で3兆円を気前よく貸し付ける。
リニア中央新幹線は巨額の赤字を出すのではないかという懸念がある。万里の長城、ピラミッド、戦艦大和は世界の三大無用の長物とされている。リニア中央新幹線が、この仲間入りをすることがないよう祈ってやまない。
(文=編集部)