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小僧寿し、“新型コロナ特需”で復活の兆し…ウイルスが収束したら再び危機に直面か

文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント
小僧寿しの店舗(「Wikipedia」より)
小僧寿しの店舗(「Wikipedia」より)

 経営再建中の小僧寿しが、新型コロナウイルス感染拡大の下で息を吹き返している。持ち帰りずしチェーン「小僧寿し」を中心とする持ち帰りずし事業の5月の既存店売上高は、前年同月比41.7%増と大きく伸びた。4月も7.6%増と伸びている。競争激化で厳しい状況に置かれていたが、新型コロナ下における外食店の持ち帰り・宅配需要の高まりで、小僧寿しの経営再建が一気に進む可能性が出てきた。

 小僧寿しは、かつて加盟店が2300店を超え、チェーン売上高で外食産業日本一だったこともある外食の雄だった。だが、回転ずし店やスーパーマーケット、コンビニエンスストアなど異業種との競争激化で、規模縮小を余儀なくされた。同社の2020年3月末時点の飲食店店舗数(デリバリー事業除く)は、小僧寿しや持ち帰りずし店「茶月」など計約220店にとどまる。

 業績と財務も厳しい状況だ。小僧寿しの直近本決算である19年12月期の連結最終損益は1億1600万円の赤字だった。最終赤字は10期連続となる。また、最終赤字が積み重なるなどで純資産が減少し、18年12月末に10億5700万円のマイナス(前の期は2億6400万円のプラス)となり、債務超過に陥った。19年12月末には900万円のプラスになり債務超過から脱したが、収益が改善する兆しは見えず、再建の道は険しいままだった。

 もちろん、これまでに対策は講じてきた。すしに加えてから揚げや天ぷらなどを販売したり、宅配ポータルサイト「出前館」を活用して宅配を強化するなどして収益向上を図っている。宅配に関しては、18年にデリズを子会社化して強化を図った。だが、こうした施策は必ずしもうまくいったわけではない。特に宅配に関しては、新規出店が遅れたり人件費などコストがかさむなど、思うように収益を上げられていなかった。

 ところが、新型コロナで状況は一変した。感染リスクが高い「3密」を避けるために外食を控える人が増えた一方、自宅で外食店の料理を食べたいと考える人が増え、持ち帰りと宅配の需要が高まった。小僧寿しでも3月以降、持ち帰り・宅配需要の高まりで売り上げは増加傾向にあるという。

 新型コロナ下では多くの外食店が売り上げを大きく落としているが、持ち帰りと宅配が強いところは、どこも好調だ。マクドナルドは4月の既存店売上高が6.5%増、5月が15.2%増と大きく伸びている。ケンタッキーフライドチキンは4月が33.1%増、5月が37.6%増と大幅増を達成している。マックとケンタッキーは、もともと持ち帰りと宅配の需要が高いが、新型コロナでさらに高まったかたちだ。

 小僧寿しと茶月もすしの持ち帰り専門店のため、持ち帰り需要の高まりは大きな追い風といえる。実際、先述したとおり、持ち帰りずし事業の4月と5月の既存店売上高は大きく増えている。宅配事業も宅配需要の高まりが追い風だ。同事業の既存店売上高は、4月が29.1%増、5月が43.9%増と大きく伸びている。

新型コロナが収束すると、再び危機に陥る恐れも

 こうして、小僧寿しは息を吹き返した。だが、この特需が長続きする保証はない。ワクチンや治療薬が普及すれば、新型コロナの感染を恐れる人が減り、持ち帰りと宅配の需要が元の水準に戻る可能性が捨てきれない。そのため、この特需に依存したり甘えたりすることは危険だ。

 ここで注意しなければならないのが、小僧寿しと、マックやケンタッキーの好調さには違いがあることだ。小僧寿しは新型コロナの特需で不調が好調に転じたのに対し、マックとケンタッキーは好調だったのがさらに好調になった、という違いがある。そのため、マックとケンタッキーは特需がなくてもやっていける。しかし、小僧寿しは特需がなくなった場合、根本的な問題を解決できなければ、また不調に戻る可能性が高い。小僧寿しを取り巻く環境は厳しいのだ。

 このことを考える上で重要となるのが、「すし」と「ハンバーガー、フライドチキン」の競争環境の違いだ。ハンバーガーとフライドチキンは、出来たてでないとおいしくない。そのため、出来たてを提供するための調理設備が充実していないコンビニやスーパーでは、おいしいものを提供することが難しい。一方、すしは出来たてでなくてもおいしい食べ物だ。そのため、店舗に調理設備がないコンビニでも、工場で製造して店舗に配送することでおいしいすしを提供することができる。

 また、ハンバーガーとフライドチキンは調理が難しいが、すしは調理が難しくないので調理場があるスーパーであれば簡単にすしを提供することができる。こうした違いにより、コンビニとスーパーはマックとケンタッキーの脅威とはならない一方、小僧寿しの脅威となった。これが業績の明暗を分けている。

 このように、小僧寿しにとってコンビニとスーパーは依然として大きな脅威なので、新型コロナによる特需がなくなれば、小僧寿しはあらためてコンビニやスーパーとガチンコ勝負をしなければならなくなる。コンビニは製造技術や輸送方法の高まりですしが充実してきているほか、すしの代替品となるおにぎりや弁当なども充実しており、大きな脅威といえるだろう。

 スーパーも同様に大きな脅威だ。売り場に隣接する調理場で製造した新鮮なすしを提供できるほか、買い物のついでに買ってもらえることが強みとなっている。小僧寿しはこうしたコンビニとスーパーのすしと戦わなければならない。

 回転ずしチェーンも大きな脅威だ。新型コロナの影響で店内飲食の需要が減って厳しい状況にあるため、現在はそれほど脅威ではない。しかし、新型コロナが収束したあとは、店内飲食の需要が回復するので、大きな脅威となるだろう。しかも、大手回転ずしチェーンは持ち帰りずしを強化しているので、脅威度は以前よりも高い。各社、新型コロナによる店内飲食の需要減を補うため、品ぞろえを増やすなどして持ち帰りずしの強化に動いているのだ。

 小僧寿しは新型コロナによる特需に甘えずに構造改革を進めていく必要がありそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に勤務。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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