居酒屋「塚田農場」を展開するエー・ピーカンパニーが、業績回復の一手として「食堂」の展開に乗り出した。同社は新型コロナウイルスの感染拡大で業績が大きく悪化しており、食堂の多店舗展開で事態の打開を図る。
同社の業績は厳しい状況が続いている。外出自粛が広がった3月は、既存店売上高が前年同月比41.2%減と大きく落ち込んだ。4月以降の既存店業績は開示しない方針のため詳細は不明だが、相当厳しい内容だったと推測できる。同社は他社に先駆けて4月2日から国内の直営全店を原則休業としている。6月1日から順次営業を再開しているが、この2カ月間は、一部店舗で試験的にランチ営業を実施したりテイクアウトメニューを販売するくらいで、通常営業はほとんどできずにいた。
新型コロナの影響で外食産業は総じて厳しい状況に置かれているが、なかでも居酒屋は特に厳しい。
日本フードサービス協会の調査では、3月の外食売上高(全店ベース)は17.3%減、4月が39.6%減となっているが、そのなかで居酒屋業態は3月が41.4%減と大きく落ち込み、4月にいたっては90.3%減と壊滅的だ。こうしたことから、エー・ピーカンパニーの4月の既存店売上高も相当厳しい内容だったことが推測される。前年からの減少率が90%以上だったとしても驚きはない。
もっとも、エー・ピーカンパニーの不振は以前から続いていた。19年4月~20年2月の既存店売上高は、前年同期比2.3%減だった。これ以前も、長らくマイナス傾向が続いている。19年3月期は前期比7.1%減と大きく落ち込んでいた。
塚田農場は本格的な地鶏料理や、来店回数に応じて肩書きが変わる「名刺システム」などで耳目を集めた。だが、類似業態が増えるなどしたため、次第に飽きられるようになった。また、若者のアルコール離れなどで居酒屋という業態自体が斜陽化しており、客離れに拍車がかかっている。さらに、今後も新型コロナの感染リスクが高い居酒屋を敬遠する動きが当面続くことが予想され、客離れが長引く懸念がある。
塚田農場の不振で、エー・ピーカンパニーの20年3月期の連結業績は厳しい内容となった。売上高は前期比6.1%減の230億円、営業損益は4500万円の黒字(前期は2億9800万円の赤字)、最終損益は1億1700万円の黒字(前期は20億2800万円の赤字)だった。不採算店の閉店や経費削減を進めたりしたため利益は改善したが、閉店の影響に加え新型コロナの影響を受け、売り上げは減少している。同期の既存店売上高は5.5%減だった。
つかだ食堂、厳しい戦いは不可避
居酒屋は変革を迫られている。居酒屋「甘太郎」などを展開する外食大手のコロワイドは、新型コロナの影響を受け、居酒屋業態を中心に不採算店196店を閉店すると発表した。居酒屋「和民」などを展開するワタミも、居酒屋の不採算店65店を閉店する。両社とも「脱居酒屋」を進め、非居酒屋業態の拡充を急いでいるが、新型コロナを機にその動きを加速させる考えだ。
エー・ピーカンパニーも、こうした変革が求められていた。そうしたなかで同社は6月4日、食堂の新業態「つかだ食堂」を本格展開すると発表した。同社は新型コロナの影響で居酒屋需要が減る一方で、「食事」の需要が伸びるとみて食堂を展開するに至った。塚田農場を業態転換するかたちで5月15日から試験的に、つかだ食堂の渋谷南口店の運営を開始。同様に18日に武蔵小杉店、6月9日に池袋北口店をオープンしている。
つかだ食堂では、塚田農場で扱う食材を使った「つかだ食堂の小鉢御膳」(1500円/税込み、以下同)や、傘下の海鮮居酒屋「四十八漁場」で扱う食材を使った「越田商店のもの凄い焼き鯖定食」(900円)、「日替わり定食」(880円)などを提供する。同社はほかにも、ホルモン居酒屋「芝浦食肉」など複数の業態を抱えているが、これらで仕入れるすべての食材の中から季節や生産状況などに応じて最適なものを選んでつかだ食堂で提供するという。アルコールも提供し「ちょい飲み」需要の取り込みも狙う。
エー・ピーカンパニーは、つかだ食堂で業績回復を狙う。だが、食堂市場は競合がひしめいており、厳しい戦いを強いられるだろう。「大戸屋ごはん処」「やよい軒」「まいどおおきに食堂」「めしや 宮本むなし」といった同業との激しい戦いが避けられない。
また、異業種とも激しい競争を繰り広げることになるだろう。定食は異業種とも競合しやすい。
ホッケの定食など魚系の定食であれば海鮮系居酒屋と、とんかつの定食であればとんかつ店と、野菜や肉を炒めたり揚げたりした定食であれば中華料理店と競合するからだ。また、ファミリーレストランも定食を提供するところがある。こうした異業種とも競争しなければならない。
このように食堂市場は競争が激しいため、つかだ食堂の競合も厳しい状況にある。大戸屋は価格の高さなどが敬遠され客離れが起き、業績は低迷している。新型コロナの影響がほとんどないといえる2月以前の19年4月~20年2月の既存店売上高は前年同期比5.4%減と大きく落ち込んでいる。やよい軒も競争激化などで苦戦を強いられており、20年2月期の既存店売上高は3.8%減とマイナスだ。
つかだ食堂はこうした厳しい市場に飛び込んだわけだが、事業を拡大させる上で懸念されるのが、価格の高さだ。1000円以上の定食が少なくなく、価格帯は大戸屋よりも上だ。その大戸屋は価格の高さが敬遠されている。さらに今後は新型コロナの影響で消費者の節約志向が強まる可能性がある。そうなれば、つかだ食堂を日常的に利用できる人は相当限られるだろう。取り込める市場はそう大きくはないのではないか。
厳しい戦いとなりそうだが、つかだ食堂の動向を注視していきたい。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)