エルピーダの更生計画は、日米をまたぐ大騒動に発展した。東京地裁は10月31日、2つの更生計画案のうち、坂本管財人による案を採用した。12月には日本や米国での合併前審査が終了。今年2月に中国での審査が終わったことで、独占禁止法の手続きは全て完了した。債権者の投票を経て、更生計画が認可されたのである。
混乱を招いた最大の原因は、DIP型の会社更生手続きにあった。厳格すぎて利用が進まない会社更生法の利用を促進するために、東京地裁は08年12月、旧経営陣が続投して会社再建を図るDIP型の運用を始めた。
しかし、社長を続投するだけでなく、再建スポンサーの選定と更生計画の策定に大きな権限を持つ管財人に坂本氏が選ばれたことは、多くの債権者にとって想定外だった。これが“出来レース”批判が起きた原因だ。経営責任を問われてしかるべき社長が管財人となり、一人二役で進めた更生手続きが大きな問題を残したわけだ。
11年(暦年)のDRAM市場におけるシェアは1位が韓国サムスン電子の42.2%、2位が韓国SKハイニックスの23.0%。この時点でエルピーダ(13.1%)とマイクロン(11.6%)と合わせると24.7%となり、逆転して第2位になる(数字は米HISサプライの調査)。
それでは、エルピーダは再生できるのだろうか?
更生計画の目玉は、マイクロンが身銭を切る「コストプラスモデル」だ。マイクロンはエルピーダに製造委託したDRAMを、5~10%のマージンを上乗せして買い取ることになっている。これによりエルピーダは13年9月以降、毎年1820億~1940億円の売上高と40億~100億円の純利益を保証される。弁済の原資となるフリーキャッシュフローも20年2月までに1730億円を確保でき、弁済計画の1400億円を上回る(計算になっている)。
このシナリオ通りに進むのだろうか? 社債権者は「支払われる保証がない」と猛反発した。計画が、DRAM市場の価格動向に大きく左右されるからだ。DRAM価格は長期低迷が続いたために各社の赤字が拡大して、エルピーダは経営が破綻した。DRAM価格の回復がなければ、更生計画は絵に描いた餅になりかねない。
今回の騒動の主役で、管財人として更生計画案の策定を主導してきたエルピーダの坂本幸雄社長は、今後しばらく再建に力を尽くすとしている。更生計画が軌道に乗るのを見届けた上で「いずれ退任する」との意向を示しているが、すぐに辞めるのが筋であろう。
(文=編集部)