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北陸新幹線、JR東海とJR西日本の「下らない領土争い」…無駄な迂回で建設費増大

文=小川裕夫/フリーランスライター
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北陸新幹線、JR東海とJR西日本の「下らない領土争い」…無駄な迂回で建設費増大の画像1北陸新幹線用E7系(「Wikipedia」より/Rsa)

 2014(平成26)年に長野駅から金沢駅まで延伸開業を果たした北陸新幹線。開業当初、JRや沿線自治体が猛烈にPRをした成果もあって、観光地・金沢はちょっとしたブームに沸いた。

 現在、北陸新幹線は東京駅-金沢駅間まで開業しているが、それで建設が終わったわけではない。北陸新幹線は、もともと災害で東海道新幹線が不通になっても東西の移動ができるように構想されたものだ。そのため、現在も金沢駅以西は粛々と延伸工事が進められている。

 これまで、金沢駅から西へのルートは福井市に設置される福井駅を通って福井県敦賀駅までが決定していた。敦賀駅より先は終点となる新大阪駅まで決定しているが、途中のルートに関しては決まっていなかった。そのため、北陸新幹線をわが町に呼び込もうと、政治家や自治体間の綱引きが水面下で繰り広げられていた。

 政府は敦賀駅-新大阪駅間において建設ルート案をいくつか示しているが、もっとも工費が安く済み、工期が短いとされていたのが敦賀駅から滋賀県の米原駅へとつなげるルートだった。

 米原駅は東海道新幹線「のぞみ」は停車しないものの、滋賀県東部に位置する東海道新幹線や東海道本線、北陸本線が停車する重要な駅として位置付けられている。そんな米原駅へとつなげるルートが最有力とされた理由は、JR西日本の懐事情が大きく関与している。

 東海道新幹線に比べて、北陸新幹線は沿線人口が少ないから利用者は多く見積もれない。そのうえ、北陸新幹線は豪雪地帯を多く抱える。冬季の保守費用は馬鹿にならない。少しでも収益を確保するために、北陸新幹線の豪雪地帯区間を短くして新大阪駅までつなげたい。そんな思惑がJR西日本にはある。地元自治体の滋賀県にとっても北陸新幹線が米原駅に来ることは大歓迎。両者の思惑は一致していた。

領土争い

 しかし、そう簡単に事は運ばない。東海道新幹線は、JR東海が管轄している。JR東海の売上は、約1兆3000億円(14年度)。そのうち、東海道新幹線だけで約1兆1400億円を叩き出している。JR東海は売上の87.5パーセントを東海道新幹線に依存している。だから、簡単に北陸新幹線を米原駅発着させる計画を容認できない。北陸新幹線の上越妙高駅(新潟県上越市)以西はJR西日本が管轄しているが、新幹線のルートをJR西日本の意思だけで決めることはできないのだ。

 JR西日本の関係者は、こうこぼす。

「東海道新幹線は、JR東海のドル箱路線。そんなドル箱路線に、JR西日本が管轄する北陸新幹線が接続するとなれば、聖域を侵すことになります。それは、JR東海にとって言語道断です。北陸新幹線の米原駅発着が認められなかったのは残念です」

 JR東海とJR西日本の“領土争い”による影響もあって、北陸新幹線は敦賀駅から米原駅へと向かう計画はなくなり、代わって福井県の若狭地方の拠点・小浜市へと迂回するルートが検討された。小浜市は若狭地方の主要都市とはいえ、現在は人口3万人ほどの小都市。北陸新幹線の駅が設置されても、多くの需要が見込めるとは思えない。

 北陸新幹線のみならず、全国に延びている新幹線は、政府や与党によって選定されて、ルートが決められている。政治力によって新幹線のルートが決まることもあり、そのため政治家は自分の選挙区などに新幹線を強引に誘致し、駅を造らせようとする。政治力によって新幹線が捻じ曲げられる様は、我田引水をもじって“我田引鉄”と揶揄される。

 北陸新幹線も政治力と無縁ではいられなかった。JR西日本関係者の一抹の不安は、小浜市以西のルートの決定でさらに増大することになる。

滋賀県の落胆

 このほど、政府は北陸新幹線の敦賀駅-新大阪駅間のルートをほぼ確定させた。発表されたルート案は、小浜市から東海道本線の京都駅を通り、そこから新大阪駅へと直行せずに京都府京田辺市にある松井山手駅を経由するというものだった。

「JR西日本は北陸新幹線を小浜に迂回させることで東海道新幹線との競合を避けるように、最大限JR東海へ配慮したつもりです。しかし、JR東海は京都駅-新大阪駅間でもJR西日本と競合することを嫌がったのです。そうしたことからJR西日本は北陸新幹線を京都駅から新大阪駅まで直行させずに、京都府京田辺市にある松井山手駅付近へと迂回させる“南回りルート”を選択したのです」(同)

 北陸新幹線が迂回するルートに決まったことで建設費は増大し、開業後の需要も期待できなくなるという、まさに踏んだり蹴ったりのJR西日本だが、落胆しているのは滋賀県も同じだ。

 最有力の米原駅に北陸新幹線が来なくなったどころか、かすることもなくなった滋賀県。北陸新幹線という大魚を逃した滋賀県の政財界からは、さぞかし恨み節が聞こえてくるかと思いきや――。

「米原駅は東海道新幹線のほか、東海道本線や北陸本線、近江鉄道などが発着する滋賀県東部における交通の要衝です。本来、それだけ交通の便がよければ、駅前はもっとにぎわっているはずです。ところが、米原駅前は商業施設も乏しく、活気がありません。これは、滋賀県と米原市の関係が良好ではなく、都市開発などの主導権争いなどで関係がギクシャクしているからです。北陸新幹線に逃げられてしまった理由にはJR東海とJR西日本の確執があるのかもしれませんが、滋賀県にも県と市の足並みが揃っていなかったという面がありました。滋賀県はJR東海とJR西日本に対して、強く言える立場になかったのです」(滋賀県庁職員)

 過去、滋賀県では東海道新幹線の京都駅-米原駅間に南びわ湖駅という新駅を計画していた。この新駅計画は順調に進められて、用地買収まで済んでいた。ところが06年に建設見直し派の嘉田由紀子知事が当選したことで、南びわ湖駅計画は頓挫した。そうした“南びわ湖ショック”による影響も、滋賀県が北陸新幹線の誘致に積極的になれなかった理由とも言われる。

 紆余曲折あった北陸新幹線の敦賀駅以西ルートは、とにかく決着した。しかし、北陸新幹線は最短でも2033年開業予定とされている。これまでの議論を振り返ると、その間にちゃぶ台返しが起こる可能性は決してゼロではないだろう。北陸新幹線は、いまだ混迷を続けている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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