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近距離客は「ゴミ」…タクシー運転手の隠語が秀逸!「大きな忘れ物」は?

文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー
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近距離客は「ゴミ」…タクシー運転手の隠語が秀逸!「大きな忘れ物」は?の画像1全車に飛ばされる無線連絡。「感度8」は警察の“ネズミ捕り”を意味し、通過の際はスピードダウン必至だ。

「〇×ゼロ番地、入れるお車ありませんか?」

 タクシーに乗車中、こんな無線が聞こえてくることがある。私たちドライバーはわかる場所だが、乗客にはどこのことかわからないはずだ。

 あるとき、「運転手さん、ゼロ番地ってどこですか?」と聞かれた。

「どこだと思います?」

「わからない。住所にゼロってないよね?」

「はい。特別なところです」

「わかった。警察署でしょ」と言われたが、そうではない。

 火葬場である。

「あの世には番地がない」「霊(=0)からきている」など諸説あるが、いずれにせよ「火葬場」と耳にしていい気分になる人はいないため、無線係は隠語を駆使するわけだ。

 かくいう私も、新人時代は意味がわからなかった。「飛び地のこと?」などと想像したが、先輩ドライバーに聞いて「なるほど」と納得したのを覚えている。

近距離客は「ゴミ」、ヤクザは「トエンティー」

 このように、タクシー業界には多くの隠語がある。乗務を終えたドライバーのセリフの一例を挙げてみよう。

「今日は足切りに足りなそうで、ブッコミ覚悟でイッパツを狙ったんだよ。青タンだったけど、ハナ番なので我慢してね。ゴミだったらイヤだな、と思ってたらトエンティーが乗ってきて、なんとオバケだったよ。ロクまで出て助かったー」

 この会話、翻訳すると次のようになる。

「今日は売り上げが上がらないので、近距離客を引いたら自腹納金するつもりで、長距離客狙いの付け待ちをしたんだ。深夜の割増時間帯だったけれど、順番待ちの先頭なので離れずに我慢してね。近距離客だったらイヤだな、と思っていたところ、ヤクザ風の男が乗ってきて、超長距離客だった。おかげでノルマに達して、しかもチップまでもらえて助かったよ」

 各語の解説は、以下の通りだ。

足切り…ノルマ
ブッコミ…自腹納金
イッパツ…長距離客狙いの付け待ち
青タン…深夜割増料金
ハナ番…客待ちの先頭
ゴミ…近距離客
トエンティー…ヤクザ風の男(8+9+3=20からきている)
オバケ…思いもよらぬ長距離客(運転手にもよるが、私は2万円以上の乗客をオバケとしている)
ロク…チップ(余禄からきている)

絶対乗せたくない「カバンの忘れ物」とは?

 では、隠語を用いた無線連絡の例を記すので、意味を考えてみてほしい。

「JR錦糸町駅、赤ランプです」

 これは、「駅のタクシー乗り場が客であふれ、タクシーがいない」という合図だ。当然ながら、付近を走るタクシーは駅に車を向けるが、駅に向かう途中が「魚群」(街中に客があふれている状態)の場合、途中で「キャッチ」(流し営業で客につかまること)されると駅の乗り場に入れなくなる。そして、魚群もほとんどは「ハズレ」(思ったほど長距離ではない客。深夜ならおおむね1500円以下)である。

「311(無線番号)、お座敷です。営業所有線願います」

 これは、無線番号「311」のドライバーが運行管理者から「会社に電話(有線)をせよ」と呼び出されるケースだ。花柳界で「お座敷」といえば、芸者さんに「仕事が入ったよ」という意味で使われているが、タクシー業界では、ほとんどが注意やお叱りである。乗客からクレームが入った場合、身に覚えのある運転手は嫌々連絡することとなる。

「青梅街道下り・中野付近、感度不良です」

 勘のいい人ならおわかりかもしれないが、正解は「ネズミ捕り」(警察の取り締まり)である。タクシー無線は電波法で輸送情報以外の伝達を禁じているため、こうした隠語を駆使しているわけだ。「落下物注意」などの隠語を用いる会社もあり、ネズミ捕りを目撃したドライバーが無線連絡する場合、「電線工事中」などとすることもある。

「品川区東品川で大きな忘れ物がありました」

 これは、「付近で重大事件があり、犯人が逃走中」という意味で使われる。

 タクシーはさまざまな場所を走るだけに、事件の犯人を見かける確率も高く、「不審な人物を見かけたら協力してほしい」という要請である。

 これに対して、「カバンの忘れ物、ありました」と返答したら、「犯人らしきあやしい人物を乗せています」というコールサインとなる。

 我が身に危険が迫った場合、ドライバーは手元のスイッチを押して行燈を赤く点滅させる。もし、行燈が点滅しているタクシーが走っていたら、運転手が危険な状況にあるか、ひざなどが当たって間違えて点滅させたかのどちらかだ。

 めったにないケースだが、「大きな忘れ物にはかかわりたくない」と、ほとんどのドライバーが思っている。もちろん、私もだ。
(文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー)

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

1966年千葉県生まれ。東京都内の中小会社でタクシードライバーを兼務するライター。競馬と野球をメインに、雑誌や書籍で執筆をしている。主な著書に『テイエムオペラオー伝説』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(ともに星海社、共著)などがある。

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