東芝の半導体メモリ事業の売却が大詰めを迎えている。1次入札では韓国SKハイニックス、米ブロードコムが評価額として2兆円超を提示。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は最大3兆円を応札できることを示唆していた。ここにきて、官民ファンドの産業革新機構と米投資ファンド大手コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の日米連合が本命に躍り出たが、関係者の思惑は錯綜しており、まだまだ予断を許さない状況が続きそうだ。
シャープの二の舞
経済産業省関係者は「鴻海だけは100%ない」という。金額だけでは鴻海が頭ひとつ抜けている格好だが、技術流出を懸念する経産省や首相官邸周辺から聞こえてくるのは「シャープの二の舞だけは避けたい」との声だ。
2016年初頭にシャープの買収先を決める際には、産業革新機構と鴻海の一騎打ちとなった。直前になり、事実上の決定権を握る主要取引銀行のみずほ銀行が鴻海支持を表明。私的整理を求める機構案に対し、鴻海案は優先株の簿価での買い取りなど金融機関には痛みを伴わない内容だったからだ。結果、「国益より自らの利益を優先した」として、みずほ銀は総スカンを食らった。
「鴻海は昔からのみずほ銀の大口取引先。みずほ銀が鴻海に知恵をつけたのでは、との穿った見方もあった」(経産省関係者)
今回も、みずほ銀は三井住友銀行と並び東芝の主要取引銀行に名を連ねる。銀行団としては、債権が焦げ付かなければ売却先はどこでも構わないとのスタンス。中国だろうが韓国だろうが高く売れるところに売ればいいとの姿勢を隠さない金融機関関係者も少なくない。シャープの一件で「みずほ憎し」の経産省は、東芝問題ではみずほ銀とはほとんど没交渉だが、「鴻海の高値入札の背後には、みずほ銀が暗躍しているのではとの見方も省内ではある」(同)という。
米ブロードコム陣営への警戒
現実的な問題として、経産省が警戒するのが米ブロードコム陣営だ。4月18日の日米経済対話以降、ブロードコムが有力との見方が広まった。
「米国政府の意向が、何かしら伝えられたのでは」(政府系金融機関関係者)
米政府としては、ブロードコムを推す理由はある。同社の主要株主で、今回共同で入札するファンドのシルバーレイ・クパートナーズの投資先には、米デルやストレージ(外部記憶装置)最大手の米EMCが並ぶ。そこに東芝メモリが加われば、垂直連携でソフトからハードまでが揃う。