今月初めに、経済産業省が国内で販売するすべての新車について、2030年代半ばに電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの電動車にする目標を策定する方針を固め、世間に衝撃を与えたことは記憶に新しい。これに刺激されたのか、東京都も経産省の目標より5年達成予定を早めた目標を策定中であることをマスコミ各社にリーク。8日に一斉に報じられた。
この東京都の目標に対し、一部のディーラーや宅配フード業、新聞販売店などから不安の声が出始めている。東京都の目標には、経産省が具体的に言及していなかった「2035年までにガソリンでのみ動く二輪車を全廃する」という文言が含まれていたからだ。
NHK「NEWS WEB」が8日に公開した記事『東京都 新車の乗用車「2030年までに脱ガソリン車」方針固める』には次のような下りがあった。以下、引用する。
「世界的に『脱ガソリン車』の動きが広がる中、東京都は、都内で販売される新車について乗用車は2030年までに、二輪車は2035年までにガソリンエンジンだけの車をなくし、すべてを電気自動車や燃料電池車などにする目標を打ち出す方針を固めました」
一連の目標策定はそもそも、菅義偉首相が50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を表明したことが端緒だった。それを達成するために経産省が前出の目標を策定し、東京都が続いたという流れだ。すでに4輪車を脱ガソリン車化することについては、複数の報道が自動車各メーカーの困惑の声を伝えている。だが、東京都が今回踏み込んだ2輪車廃止の影響に関してはあまり伝えられていない。いったいこの目標を業界はどう受け止めているのだろうか。
二輪車販売店「根耳に水」
二輪車メーカー大手ヤマハ発動機の商品をメーンに取り扱う東京都23区内の販売店経営者男性は次のように語る。
「寝耳に水です。2年前に父親から店を継いだばかりです。バイク業界もいずれは電動化、ハイブリッド化の流れになるものと考えていましたが、あと15年で店を閉めろということでしょうか。そもそも2輪のユーザーと4輪車の利用者は絶対数が違うのに、ひとまとめに規制されることになるとは……。
仮に、ヤマハさんが既存のリッターマシン(1000㏄以上の排気量のバイク)を電動化したり、ハイブリッド化したりして、愛好者に需要があるのでしょうか。そもそもバイクという業界そのものをこの世からなくすということなんでしょうか」
宅配フードサービスや新聞販売店にも影響か
都の目標がどれほどの規制を伴うものかはわからないが、影響を受けるのはバイク販売業者だけではないようだ。多摩地区の宅配ピザチェーンのフランチャイズ店のオーナーは次のように不安視する。
「既存の配達用のスクーターを2035年までにすべて更新しなくてはいけない可能性があることは理解しました。その設備負担を考えると正直、ゾッとします。バイクメーカーさんの努力次第なのでしょうが、今後、電動やハイブリッドのスクーターやバイクが開発されたとして、新車の値段やリース代は決して安いものではないでしょう。本部から購入補助はあるのか、また都は規制するだけではなく、我々のような中小事業者のためになんらかの支援をしてくれるのか。非常に不安です」
年々販売部数が減少し続けている新聞販売店もこのニュースに敏感に反応していた。都区内の朝日新聞販売店関係者は話す。
「区内の狭い路地に配達するためには、バイクは必須です。4輪車では配達できません。確かに最近では電動アシスト自転車なども配達員に使用させていますが、今も昔も新聞輸送の要はホンダのスーパーカブです。耐久力、積載量ともに圧倒的で、ほかの販売店でも同じじゃないでしょうか。ましてや人手不足の昨今では、1台で機動力のあるバイクは必須です。
部数の激減で販売店の経営はどこもかしこも火の車です。新たに設備投資をする余裕はありません。15年後も今のような業態で新聞業界が続いているとは思っていません。それでも、新聞宅配制度は日本の誇る守るべき文化だと思ってがんばってやってきましたが今度こそ、おしまいかもしれません」
地球規模の気候変動を止めるために日本がなすべきことは確かにある。だが、目標だけ掲げて、庶民の生活を「自己責任」で切り捨てるようなことがあってはならないのではないか。