「万全の3重セキュリティー」などが売りのタワーマンションで、衝撃的な事件が発生した。
東京都目黒区のタワーマンションの一室に宅配業者を装って侵入し現金約600万円を奪ったとして、警視庁目黒署は27日、10代の少年3人を強盗容疑などで逮捕した。複数の報道によると、逮捕容疑は26日午前10時半ごろ、目黒区上目黒1丁目のマンションの一室で、応対した30代女性を「お金を出せば帰る。俺は人を刺したことがある」などと脅し、クローゼット内にあった封筒や金庫に入っていた計約600万円を奪った疑いという。女性にけがはなかった。
万全の多重セキュリティーと1階には交番も
事件の舞台となったタワーマンションは2009年に竣工。地上45階、地下2階建て総戸数495戸で、東急東横線「中目黒駅」前のランドマーク的な物件だった。オートロックはもちろんエントランス、エレベーター、通路などに監視カメラなどが設置されているほか、受付フロントも完備。守衛も常駐している。
しかも、同マンションの一階には目黒警察署中目黒駅前交番がある。およそ防犯環境は理想的に見えるが、今回はそれを正面から突破するような大胆な犯行が行われた。
犯行を行ったのは千葉県成田市の飲食店従業員(19)、千葉県印西市の塗装工(17)、千葉市の高校生(19)の3人で、2人が押し入り、1人が自動車で運転手として待機し逃走に備えていた。
押し入った2人のうち、1人は大手の宅配業者の制服に似た服を着用し、もう1人はダウンジャケットを着ていた。インターホン越しに宅配便であることを被害者の女性に伝えて、玄関などのオートロックを開錠させた上で、部屋まで移動し犯行に及んだという。
警視庁関係者は「そもそも3人はなぜ女性宅の住所や名前を知っていたのか。また600万円という現金が自宅にあったのは偶然だったのか。そういう点も含めて捜査をしている」と話す。
タワマンとはいえセキュリティーは万全ではない
衝撃的な事件を受け、タワマンのセキュリティーの見直しや、同物件の市場価値になんらかの影響はあるのだろうか。榊マンション市場研究所を主宰する住宅ジャーナリストの榊淳司氏は次のように話す。
「まず、市場価値には変動はないと思います。マンションを購入しようという層にとって、今回の件は『あくまで偶発的な事件で滅多に起こらない』と考えるでしょう。なぜ600万円もの大金が自宅にあることを犯行グループが知っていたのか。しかもすぐに実行犯が逮捕されるような稚拙な手口からも、『なりすまし詐欺』の亜種のような特殊事例ではないかと思われます。タワマンの富裕層とはいえ、自宅に大量の現金を保管しているケースはまれです。
一方で、タワマンとはいっても、必ずしもセキュリティーは万全ではないことが露呈したのは事実でしょう。一般的にタワマンには3つのオートロックがあります。中央玄関、エレベーターなどです。エレベーターは住民が指定した階にしか止まりません。そしてどの場所でも、住人からは訪問者がモニタリングできるシステムになっています。今回の事例では宅配業者を装った犯人が被害者とやり取りしている間、モニターの死角にもう一人が隠れていたことになります。
そうしたセキュリティーの死角はたくさんあります。例えば、居住者が帰宅するのと合わせてオートロックが開いた隙に一緒に敷地内に入ることは難しいことではありません。エレベーターも同様で、居住者と一緒に乗り込み、同じ階で降りた後に、非常階段で移動することもできるでしょう。非常階段は防災上の観点から施錠することはできません。さまざまな設備に油断しないようにすることが大事でしょう」
住まいの形に限らず、日ごろから防犯意識を持つことの大切さが、今回の事件で明らかになったということだろうか。
(文=編集部)