ソフトバンクグループが6月21日、東京都内で開いた株主総会で、昨年9月に3兆3000億円で買収した英半導体大手アームホールディング(HD)について、社外取締役の永守重信・日本電産会長兼社長が「私なら3000億円しか出さない」と異論を唱え、会場を沸かせた。
孫正義社長は、アームHDについて、「将来振り返るとしたら、一番カギになった買収(になる)」と自分の判断の正しさを強調した。
もう一人の社外取締役で、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、「日経ヴェリタス」(日本経済新聞社/6月18日号)のインタビューで「投資家ではなく実業家として成功してもらいたい。本業に徹してもらいたい。孫さんはグループ会社を5000社にすると言っているが、僕は20~30社にしてそれぞれが何兆円という売上高を持つ会社にしてもらいたい。そうじゃないと実業家ではなく投資家になってしまう」と語った。
期せずして、孫氏の最大の理解者である2人の社外取締役が“投資家・孫正義”に異議を唱えた。
今年の株主総会は、孫氏が事業家から投資家に本卦還りを宣言したことに、大きな意味がある。2014年に米グーグルからニケシュ・アローラ氏を後継者として迎え入れた。1年前の株主総会で孫氏は60歳を機に社長を退くとしていた方針を翻し、アローラ副社長が退任した。
アローラ氏に88億円の退職費用を支払ったことについて、「払う必要のない退職金だったかもしれないが、代わりに私が社長に戻ってきたという価値がある」と株主に理解を求めた。孫氏は6月21日付で、空席だった会長を兼務した。
ソフトバンクの時価総額20兆円を画策か
サウジアラビアなどと5月に発足させた10兆円規模の投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」に関し、「加速度的にグループを強化するために設立した」と語り、出資先などグループ企業を5000社規模に広げるとした。
新ファンドを動かすキーマンは、取締役に就任したインド出身のラジーブ・ミスラ氏。ドイツ銀行の債券部門の責任者や金融大手UBSを経て米投資会社フォートレスのロンドンの拠点の幹部だった時に、孫氏がスカウトした。ソフトバンクの米国法人に入社し、孫氏らと新ファンドのスキームづくりを主導した。このファンドはロンドンのミスラ氏のチームが投資先を決める。
新ファンドは単にリターンを得るのではなく、腕を見込んだ起業家と資本関係を通じて緩やかな連合体を築く。連合体の基盤になるのが人工知能(AI)だ。AIを軸に、投資先をインターネット企業から医療やロボット、金融までカバーする。