同社は、1971年に設立した鮮魚卸会社の冷凍食品部門を分離独立する形で73年に設立。インドネシアの関連会社で養殖したエビを自社工場で冷凍食品として加工し、国内の飲食店やスーパーなどへ販売。主力のエビフライ以外にも、イカフライやコロッケなど200種以上の冷凍食品を幅広く展開していた。
08年からは、アニメ『はじめ人間ギャートルズ』に登場するマンモスの肉を、冷凍商品として”再現”した『ギャートルズ肉』をネット限定で販売するなど、ユニークな企画展開も話題になった。近年は販売数量も堅調に伸ばし、10年12月期決算の売上高は約55億3300万円、11年12月期決算でも約58億5600万円の売り上げを計上し、エスケー食品単体では経常段階で1億円以上の利益を確保していた。
一方、主力の原材料であるエビの価格高騰により仕入れ代金が大幅に増加したことに加え、ここ数年の急激なドル安に伴い、「通貨オプション」と呼ばれる為替デリバティブ(為替予約契約)により、毎月1000万円以上の損金が発生。これが資金繰り悪化の決定打となり、今回の倒産となった。
為替デリバティブとは、為替レートの変動リスクを回避するために企業と銀行が結ぶ契約形態のひとつ。あらかじめ設定された為替レートで外貨を買う権利を購入する一方、取引銀行に同じ為替レートで外貨を売る権利を売却するというもの。契約時に銀行へ支払う手数料は無料であるのが普通で、場合によっては企業側が利益を得ることもある。
例えば、「1ドル=100円」という約束を取り決めて10ドルを交換する場合、仮に1ドルが120円の円安となれば、銀行にとっては「20円×10=200円」の損となり、逆に1ドルが80円の円高になれば銀行は200円の利益を得ることとなる。
金融機関が損をしないための巧妙な「特約」
一方、こうした契約内容に、銀行が損をしないための条項が密かに盛り込まれていると言うのは、金融事案を専門に取り扱っている、ある弁護士だ。
「デリバティブ取引は確かに契約者である企業が得をすることもありますが、それはつまり銀行が損をすることを意味しますから、そうさせないための銀行側の罠が、特約という形で契約にしっかりとかけられているのが普通です。例えば、円安になりすぎると銀行の損が膨らむので、強制的に取引を終了するという特約や、円高になったときに3倍程度のドル交換を義務づけるという特約が盛り込まれていたりします。企業側からすれば、得をしそうになったら『はい、ここでストップ』と終了されたり、不要なドル交換をさせられたりして負債のリスクを負うことになる。年商5億円以下の中小企業だと、ひとたまりもありません。これは詐欺と変わらないという意見もあります」
実際、ここ数年の円高進行で、中小企業などが為替デリバティブで生じた損害の賠償を金融機関に求めるケースが急増している。また、07〜08年にかけて、デリバティブ取引で154億円の損失を出した駒沢大学が、取引の一部を勧誘したBNPパリバ証券などを相手に約84億円の損害賠償を求める訴訟を起こしたりもしている。あまりの被害者増加に「為替デリバティブ被害対策」を専門に活動している弁護士も増えており、先の弁護士も、「ここ3年ほどは、為替デリバティブでお悩みの経営者の方からのみ、ご相談を受けている」という。
「多くの中小(企業)さんは、仕組みが分からないまま、必要のない為替デリバティブ取引を契約してしまっています。銀行側も、あえて詳しく説明しない。これが原因で月数百万円の支出が生じ、本業が黒字なのに多額の損失を計上している場合が多いのです。かといって、解約すると1億円以上の違約金を課せられたりする。大手金融機関のブラックさはハンパじゃないですよ」(同)
金融庁によれば、今年に入って寄せられた為替デリバティブ取引に関する苦情件数は195件。また、全国銀行協会にも同様の苦情が今年だけですでに260件寄せられているという。今回のエスケー食品の倒産も同取引による毎月1000万円規模の損金が主な理由とされている。これを契機に、ここ数年問題視されているデリバティブ取引がさらなる注目を集めることになりそうだ。
(文=編集部)