従来の強みが弱みとなる恐れ
トヨタ自動車を筆頭に日本メーカーは、エンジン技術、ハイブリッド技術で世界のトップ水準にある。従来の自動車市場ではこれが最大の強みであり、世界最大の自動車供給企業群を有することになった要因の一つである。しかし、市場がEVにシフトすると、この強みが弱みに転換する可能性がある。
第1に、組織の慣性である。高いエンジンやハイブリッド技術を持つ開発集団が、異質なEVの技術に簡単には転換できないし、EVの弱点を熟知している販売組織も頭の切り替えが容易ではないだろう。
第2に、部品メーカー群の存在である。動力が電気に転換すると、エンジン、トランスミッションの重要基幹部品のほとんどが入れ替わることになり、供給者転換せざるを得ない。非連続な技術転換がサプライヤー体制を非連続的に変化させることになる。仮に部品メーカーが転換を果たしても、内燃機関で優秀なメーカーがEVで優秀なメーカーとなるとは必ずしもいえない。これまでの強みの源泉であった、系列や長期取引してきた部品メーカー群が、逆に弱みとなる恐れがある。
その結果、これまで競争相手と考えていなかった企業や国が強力な競争相手となる可能性がある。テスラのような新興企業が、斬新な商品のアイデアと技術をもって、さらに登場する可能性があるだろう。それらの企業に従来メーカーは、それを上回る斬新なアイデアと技術で対抗できない事態が想像できる。さらに、新興国の中国やインドは国策として電気自動車に力を入れてきている。従来技術の自動車ではまったく競争相手とみていなかったが、これらの国から優れた競争力のあるEVが世界に供給される日が来るかもしれない。
1970年代後半、それまで三流の自動車生産国にすぎなかった日本が、厳しい排ガス規制に果敢に挑戦して、その後世界最大かつ最高の自動車供給企業群を輩出する国になった。当時、欧米のメーカーは日本企業の後塵を拝する状態に陥った。今回の自動車という商品の歴史的転換のなかで日本企業が、中国、インドあるいは欧米の後塵を拝することのないようにすべきである。
日本企業は、これまでも電池技術、モーター技術を磨いてきたことは確かだが、それ以上に経営資源をこの分野に注力する必要性が高まっている。
(文=井上隆一郎/桜美林大学教授)