今後、都市でも地方でも数々の大学が淘汰される運命にある。「大学大倒産時代」の幕開けだ。
すでに国は動き出している。財務省は文部科学省と連携して、定員割れが続く私立大学について、国からの補助金の減額および停止の検討を開始した。現在、私大の約4割が定員割れの状態だ。私大向け補助金の配分見直しで経営改善や教育の質向上を促す一方で、学術論文の公表など研究に力を入れている私大には配分を手厚くする方針だ。
「大学大倒産時代」が間近に迫るなか、文科省も経営悪化が著しい私大に対して、事業撤退を含めた早期の是正勧告をできるよう制度改正の検討を行う方針だ。
生き残る大学と淘汰される大学に二分されている背景には、どんな問題があるのか。『大学大倒産時代 都会で消える大学、地方で伸びる大学』(朝日新書)を上梓した教育ジャーナリストの木村誠氏に話を聞いた。
全国の大学を襲う「2018年問題」
大学における「2018年問題」をご存じだろうか。2009年以降、18歳人口は120万人前後で推移している。しかし、18年をメドに減少期に入ることで、大学の倒産が増えたり学生争奪戦が過熱したりすることが予想されているのだ。
しかも、この20~30年間に都市でも地方でも次々と大学がつくられた。大学・短大進学率は今や57%に達しており、専門学校などを加えた高等教育機関への進学率は80%を超えている。
「公立私立を問わず、大学の経営は厳しくなっています。また、入学者が増えていることから、質にも変化が起きています。大学の“大衆化”の進展です。昔はエリートの集う場所でしたが、今は大衆化が進んでいます。専修学校が大学化する動きもありますが、全体の進学率はこれ以上大きく伸びることはないでしょう。いつの時代も、進学をしない学生が一定数いるからです」(木村氏)
特に厳しいのは、地方の私大だ。たとえば、学校法人駒澤大学が傘下の苫小牧駒澤大学を学校法人京都育英館に無償で移管譲渡する計画が進められている。同大は、北海道苫小牧市と隣接する4町との「公私協力方式」によって設立された経緯がある。
公私協力方式とは、自治体が私大に設置経費や敷地を提供して誘致する仕組みだ。かねて地方自治体には「衰退する地方を活性化したい」という思惑があるため、同方式で新設された大学は100を超える。
しかし、愛知県新城市が誘致した愛知新城大谷大学や三重県と同県松阪市の援助で開校した三重中京大学など、廃校になるケースも増えている。地方自治体と大学の双方の思惑で全国に誕生した公私協力方式大学だが、決して万能とはいえないようだ。むしろ、今やその多くが定員割れになっている。
「公私協力方式大学の苦境は、地方経済の衰退と大きく関係しています」(同)
公私協力方式で山口県山陽小野田市に誕生した山陽小野田市立山口東京理科大学も、定員割れで経営が厳しく、一時は撤退する動きもあった。しかし、人口6万人強の同市にとって、同大学が撤退することになれば、さらなる衰退はまぬがれない。そのため、同大を公立化するという判断が下された。ほかにも、公設民営の鳥取環境大学、高知工科大学、名桜大学、福知山公立大学などが公立化されている。
「どうしても地域に残ってもらいたい大学は公立化するというのが、今のトレンドです。公私協力方式大学であっても、学費がとりわけ安いわけではありません。志願者が減少し、赤字経営を続ければ、当然撤退する動きも出てきますが、それでは地方自治体は困る。そこで、切り札として公立化という選択肢があるわけです。
しかし、それも万能ではありません。当然、公立化によって税金で運営されることになります。住民から反対意見が出ることもあり、十分な審議が必要です。
東京に住む方は『私大は市場原理に任せて、倒産すべき大学は倒産させ、残れるところは残せばいい』という発想かもしれませんが、地方の私大は公立化してでも残さないと、地域そのものが衰退して疲弊してしまいます」(同)
募集停止が相次ぐ、都内の有名女子短大
また、木村氏はこうも指摘する。
「大学が公立化すると、ほかの地方からの入学希望者が増え、もっと言えば外国からの留学生も多く入学することにつながります。異文化交流は、地域にとって非常に大事なことです。大学も地元の中だけで固まることは望ましくありません。
地元の方からは『公立化したことで入学しにくくなった』『公立大学なのだから地元の学生を優遇せよ』との声もありますが、多様な学生が生み出すシナジー効果による発展も期待できます。地元のセクショナリズムには問題があると思います」(同)
地方の衰退を食い止めるための苦肉の策として生まれた、私大の公立化。一方で、都内の私大は淘汰が進み始めている。すでに法科大学院は多くが廃校や募集停止になっているほか、東京女学館大学、青山学院女子短期大学、立教女学院短期大学なども募集停止が相次いでいる。
「東京女学館大は中学・高校の経営はしっかりしており、青山学院大も立教大も経営状況はいいのですが、将来的に受験生が減少する可能性の高い短期大学部門を削る方向でまとまったのでしょう。『とりあえず、本体部門の大学や中学・高校の経営に専念する』という経営判断だと思います。
しかし、東京の私大経営者の中には『今を辛抱して乗り切れば、大学が次々と淘汰され、自分の大学だけは生き残れる』と思っている人も少なくありません。こうした考え方は中小企業の凡庸な経営者とまったく変わらず、嘆かわしいことです」(同)
全般的に厳しい経営が続く大学だが、新設される動きもあるという。
「政治的な意図もあったのでしょうが、専門・専修学校の大学化ということで、専門職大学という新制度が創設されました。現在、少なくない数の専門・専修学校が大学化を検討しているようです。しかし、専門学校は東京都心に多く、文科省が目指す大学の東京23区集中抑制とは矛盾していると思います」(同)
消える大学、生き残る大学
大学授業料減免を公約に掲げている政党もあり、将来的には大学無償化の動きもあるが、果たして現実的なのか。
「医学部の場合は、6年かけて卒業するまでに数千万円単位の学費を含めて諸費用がかかります。授業料だけでも国が面倒を見るというのは現実的なことなのか、よく考えてほしいと思います」(同)
では、今後はどのような大学が生き残るのだろうか。木村氏は、「理工系であれば、科学研究費に注目してほしい」と指摘する。
『大学大倒産時代』では科研費のランキングを公表しているが、関西では「産近甲龍」(京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学)の伸び率が高い。そして、科研費の高い大学は「今後も安定経営が望める大学」と同義ととらえていいようだ。技術開発に力が入り、外部資金の導入にも有利に働くからだ。
同書には、国からの「特別補助」のランキングも公表されている。助成金の一種である私立大学等経常費補助金には「一般補助」と「特別補助」があり、後者は大学への競争的資金といえる。そのため、「特別補助」をより多く獲得している大学には未来がありそうだ。
一方、倒産が現実的な大学についても知りたいところだ。『大学大倒産時代』では、「収容定員充足率の低い大学の例(70%未満)」を初公表しているが、この中に載っている大学が当てはまるのかもしれない。
「大学の経営に大きな影響を及ぼす定員充足率は、収容定員で見るのが正しいです。なかには、定員割れを避けるために分母(入学定員)を前年より少なくしてしまう大学もあります。ただし、本書の中で公表された大学でも競争的資金を比較的多く獲得している大学もあるため、一概にはいえません。科研費や特別補助のデータと見比べることによって、消える大学と生き残る大学がわかるのではないでしょうか」(同)
また、木村氏は「財務や修学にかかわる情報公開に積極的でない大学の将来は厳しい。学校経営や学生の教育指導に自信がないからです」と指摘する。特に大学受験生を抱える親御さんにとっては、必読の書といえそうだ。
(文=長井雄一朗/ライター)
『大学大倒産時代 都会で消える大学、地方で伸びる大学』 2018年、受験人口の減少と地方の衰退により、大学は激変期に突入! 東大・京大など旧帝大系で格差が拡大し、早慶・MARCH・関関同立など都会の有力校でも地方の国公・私立大でも生き残り競争がさらに熾烈に! 新視点の指標で、大学の運命を実名で明らかにする。