電子部品・材料専業商社の黒田電気は、2013年3月期には1,949億円の売上高だったが、2年後の15年3月期には3,264億円にまで達し、業界トップに躍り出た。しかしそこから急降下が続き、今期(18年3月期)にはピークの15年3月期から半減となる1,600億円の売上高にとどまる見通しとなっている。わずか5年間で急上昇と急降下を続けた黒田電気は、投資ファンドからのTOB(株式公開買い付け)を受け入れ、ついに上場廃止となる。
上場維持がすべてではない。知名度の向上や市場からの資金調達が不可欠なメーカーと違い、商社は必ずしも上場にこだわる理由はないのかもしれない。しかし一気に最大手にまで昇りつめ、あっという間に売上高が半減してTOBを受け入れるに至った黒田電気にとって、この5年間は正解だったのか、という思いは残る。
黒田電気は、旧村上ファンド系投資会社との対立関係でも知られる。今回TOBを実施するのも同じ投資ファンドのMBKパートナーズである。MBKのTOBに対しては、黒田電気自身も賛同の意を示し、村上ファンド系も保有株式を手放す意向を示している。村上ファンド系は実利をとったという見方はできるが、黒田電気本体の真意はわからない。
TOBは、11月2日から12月15日までの期間で実施されている。買い付け価格は1株2,720円で、MBKは完全子会社化を目指す。TOBが発表された前日10月31日の黒田電気の株価終値は2,020円だった。
好景気のなか、今期は37%の減収、32%の減益予想
黒田電気の18年3月期の9月中間業績は、売上高が前年同期比37.2%減の738億2,000万円にまで大きく低下、営業利益は同24.8%減の26億2,100万円、経常利益は同22.8%減の26億2,300万円、最終で同32.2%減の16億1,500万円と大幅な減収減益となっている。大型液晶関連製品の受注減少が厳しく、HDD(ハードディスク)関連製品販売も低迷している。商社が軒並み増収増益なのに、大きく取り残されている。
前述のように、急成長によってピーク時の15年3月期には売上高3,264億1,400万円という規模があり、電子部品・部材専門の上場商社としてはトップクラスの規模だったが、この3年間で売上高は実に半減する。装置産業など投資が偏る業種での倍増、半減は珍しくないが、安定的な電子部品商社の売上高が半減するのは、それも中小ではなくトップクラスの専業商社としては、ほぼ前例がないと思われる。
日本およびアジア市場において、大型液晶の受注減少、HDD向け部品・製造設備受注の減少、さらに中国市場でのスマートフォン向け中小型液晶関連ビジネスの受注減少が響いている。急拡大の反動もあるだろうが、失速時に有効は手立てを打てなかったという批判は免れないだろう。
今後、黒田電気は非上場の商社として事業継続していく。投資ファンドの傘下になるため、新たな親会社とのシナジーが特に期待できるわけではない。
今後の黒田電気が向かうところ
黒田電気が何をしたいかは見えてきている。今年9月にベトナムに全額出資の子会社を設立しており、12月から操業開始する。新会社名が「KURODA MANUFACTURING VIETNAM Co., Ltd.」(仮称)で、資本金は1,800万米ドル(約20億円)。同社では今後強化していく考えの自動車市場向け基板実装を行う計画で、ハノイに工場を構える。
ベトナムにはすでに南部のドンナイ省に子会社があり、黒田電気としては現地2カ所目の生産拠点となる。ただ先発のドンナイ(BORAMTEK VIETNAM)Co., Ltd.)は樹脂加工などが主体で、今回は初めて基板実装で進出するかたち。海外拠点としては、黒田電気はアジアだけでもほかにも、インド、インドネシア、中国(深せん、東莞、合肥)、タイなどに生産・加工拠点があるが、いずれも加工や組立が主体で、基板実装としては初めてのアジア拠点。
商社だが、海外工場を持つスタイルでメーカー色を強め、さらに自動車市場をターゲットに再生を図るという思惑だろう。
黒田電気に復活はあるのか、注目したい。
(文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役)