これまで、地方都市でも人口30万規模なら大企業の支店などが置かれることは一般的だった。それによる経済的な恩恵を受ける都市は“支店経済都市”とも呼ばれ、大企業の業績に大きく左右されることがある。それでも「大企業が地方にもたらす財源的なメリットは大きい。中小企業の比ではない。大企業を誘致できた市長は、次の選挙でも安泰」(前出・地方自治体職員)と言われるほど、地方の大企業依存体質は強かった。
しかし、いまや事情は大きく異なる。大企業も支店や営業所を統合・再編して数を減らしている。これまで30万人規模の都市に置かれていた支店等は撤退し、今では人口70~80万人規模の都市でなければ、開設されなくなっている。つまり、銀行の再編という業界の荒波が支店経済都市という概念を崩壊させた。元総務省職員は言う。
「2000年頃まで、知事や市長には旧自治省(現・総務省)出身者官僚が多くを占めていました。自治省の役人は自治制度に精通しており、地方の実情も把握していますから、中央政界に補助金などの陳情をするのにはもっとも適していたからです。しかし、小泉政権で地方への補助金が削減されてから事情は一変しました。いまや、知事や市長は民間企業を誘致できることが手腕として問われます。そのため、2000年以降は、経済産業省出身の知事・市長が地方からもてはやされるようになったのです」
とはいえ、人口減少が加速し景気が低迷している現在では、財界に顔が利く経済産業省出身者を首長に据えても簡単に大企業を誘致することはできない。そうした苦しい地方自治体に追い打ちをかけたのが、メガバンクの地方撤退だった。前出・地方自治体関係者は「このままでは、地方都市の駅前から銀行が消える」といった事態を危ぶむ。
疲弊する地銀
以前なら、こうした地方経済を担う中小企業を支える役割を果たしたのは地銀だった。しかし、地銀も縮小する地域経済で体力が残っていない。体力のある地銀同士が合併して延命するのに精一杯だ。しかも、合併による延命策を取ったことで、皮肉にも地元の中小企業との関係性が薄れてしまったため、中小企業は合併して新たに誕生した地銀から融資を受けにくくなり、経営が苦しくなるという現象も地方では起き始めている。合併で中小企業離れを起こす地銀、そしてメガバンクの撤退。ITと金融が融合したフィンテックの進化と普及。複数の原因によって、さらに銀行は地方から支店や営業所を撤退させていくだろう。
このままメガバンク・地銀の再編が進むことで、地方都市から金融機関は軒並み消える。それは、地方都市の経済が冷え込むことを意味する。メガバンク・地銀の統合・再編劇は金融業界の話にだけとどまらない。これまでなんとか命脈を保ってきた地方都市と地方経済が、メガバンク撤退でトドメを刺されるのだ。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)