米航空宇宙局(NASA)は20日、火星用ヘリコプター「Ingenuity Mars Helicopter」の初飛行を成功させた。航空機が地球以外の惑星で動力飛行したのは人類史上初めて。歴史的な瞬間はNASA公式YouTubeチャンネルでも公開(下動画)された。
その動画の中で、とりわけ印象的だったのがヘリコプターが離陸した瞬間、歓喜を爆発させたNASAプロジェクトマネジャーのMiMi Aungさんが手に持っていた“謎の書類”を2つに破いたシーンだ(動画41分59秒ごろ)。いったい、この書類はなんだったのだろう。
それに対する答えを金沢工業大学バイオ・化学部応用化学科の露本伊佐男教授は自身の公式Twitterアカウントに投稿していた。露本教授に許可を得た上で引用する。
火星でヘリを飛ばすのに成功したNASAの部署。大喜びする様子が放送されてたんだけど,大喜びしながら書類を破くパフォーマンスをする女性スタッフ。そういうときは書類を破く習慣でもあるのかと思ったら,「失敗したとき用の発表原稿」だったそうな。
— Isao Tsuyumoto / 露本伊佐男 (@tsuyu2011) April 20, 2021
「火星でヘリを飛ばすのに成功したNASAの部署。大喜びする様子が放送されてたんだけど,大喜びしながら書類を破くパフォーマンスをする女性スタッフ。そういうときは書類を破く習慣でもあるのかと思ったら,『失敗したとき用の発表原稿』だったそうな」(原文ママ、以下同)
「(件の女性は原稿を破った後,こう言ってる)失敗したときの原稿は破り捨ててやったわ。読む練習してなかったし。ついてるわ。読むことになったのは,もっともっと短い成功のときの原稿よー。「人類が初めて地球以外の惑星でヘリを飛ばすのに成功しましたー」
打ち上げに失敗した時用の発表用原稿、日本は「そっと廃棄」?
トライアンドエラーがつきものの宇宙開発事業では「失敗した時の記者発表文」は必須アイテムだろう。一方で、そうした発表文の存在は、プロジェクト開始前に何が問題になり得るのかをしっかり検討・検証していることの証左といえるのかもしれない。
実業家のホリエモンこと堀江貴文氏が創業した民間ロケット開発事業者インターステラテクノロジズ(北海道大樹町)の広報担当者は次のように話す。
「宇宙開発に限らず、リスクのある事業をしている場合は当然の対応だと思います。万全を尽くして開発していますが、想定外のことが起きる可能性は常にありますので、いろんな事態を想定して対策をとれるように準備をしておりまして、その一環として広報的な準備をする場合もございます」
一方、宇宙航空研究開発機構など打ち上げられている国産ロケットの開発に携わる石川島播磨重工(IHI)の元技術者は語る。
「お国柄もあるのだと思いますが、少しでも乱暴に見える言動が批判される日本では(用意していた失敗用原稿を)そっと隠して、後でひっそり廃棄というのが一般的だと思います。でも技術者として、失敗用原稿を破り捨てたくなる気持ちはよくわかります。NASAの動画を見て、少しスカッとしました。
自分たちが数年かけて自信をもって作った機材が、失敗することを想定するのは心理的にかなりキツイ作業です。特に技術的なリスク評価に関する作業は地味で、『縁起でもない』と言われがちですが、華やかな成功の影には、こうした失敗用のリリースの準備も含め、技術者の緻密な準備があることを多くの方に知ってもらいたいと思います」