創業者の武雄氏が高齢のため経営の一線から距離を置き始めるなか、グループは2極体制をとっていた。日本ロッテを担当していたのが長男の宏之氏で、そのサポート役として三井住友銀行出身の佃孝之氏がロッテホールディングス社長に招聘されていた。他方、韓国ロッテを担当していたのが次男の昭夫氏である(ロッテホールディングスでは副会長)。
日韓ロッテグループは連結売上高が6兆円を超えるが、9割以上は韓国ロッテによるものだ。一方で資本構造はロッテホールディングスを頂点に日本側がロッテホテル以下の韓国側を支配するかたち。昭夫氏が佃氏を抱き込んで宏之氏を追放した背景には、兄弟間の跡目争い以上に、日本に首根っこを押さえられている韓国側の経営層が自由度を求めて“母屋”の支配権を奪取したとの側面もある。
ただ、取締役会の多数派を握った昭夫氏にはアキレス腱があった。昭夫氏自身はロッテホールディングスの株式をわずかしか押さえていなかったのである。他方、宏之氏は資産管理会社の光潤社(東京都新宿区)を通じ議決権の約31%を直接支配していた。個人保有分も含めれば約34%を押さえ、重要議案に対する拒否権を握る格好だ。対する昭夫氏は従業員持株会(約31%)や役員持株会(約7%)などを間接支配しているにすぎない。
このため経営復帰を求める宏之氏は臨時株主総会の開催を請求して株主提案を突き付けつつ、水面下では従業員持株会を切り崩す構えを見せた。すぐに株主総会をひっくり返される状況ではないものの、昭夫氏にとってはじつに悩ましい構図である。
「経営権紛争関連会議」
そんななか、昭夫氏は昨年初めに銀行から個人で112億円を借り入れ、武雄氏の内縁の妻である徐美敬氏とその娘が持つロッテホールディングス株2.6%を買い取っている。直接の支配力を少しでも高めようと考えているのだろう。他方で、グループで強力に進めているのが宏之氏の支配力を削ぐための資本政策だ。
例えば昨年10月、韓国ロッテは主要企業を経営統合して新たに持ち株会社を設立している。統合したのはロッテショッピング、ロッテ製菓、ロッテフード、ロッテ七星飲料の4社。そのうち最大規模のロッテショッピングでは従前、昭夫氏と宏之氏が約13%の株を分け合い、力が拮抗していた。それが統合の結果、昭夫氏が持ち株会社の約2割を握る筆頭株主となり、宏之氏に差をつけることとなった(宏之氏はこの間、ロッテショッピングの一部保有株を放出してもいる)。