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高橋篤史「経済禁忌録」

日韓またぐ異形の大企業、贈賄でトップに実刑判決…内部紛争混迷、解体の序曲か

文=高橋篤史/ジャーナリスト

 さらにグループ会社を上場させて外部資本を取り込むことにより、結果として宏之氏の支配力を弱めることも狙っている。その一例がロッテホールディングス傘下の事業会社を東証に上場させる計画だ。その準備段階としてすでに事業会社のロッテ、ロッテ商事、ロッテアイスの3社は今年4月1日付で合併することを決議している。

 実はそうした資本政策のうち、お家騒動直後に計画を始動させていたのはロッテホテルの上場だった。同社は韓国ロッテにおける出資窓口のような存在で前出のロッテショッピングやロッテケミカルといった主要企業に出資、そこから各社は複雑なかたちで持ち合い構造を築いてきた。ロッテホテルはいわば韓国ロッテにおけるキーストーンだが、他方でほぼ100%の株式を日本のロッテホールディングスに握られている。そこで昭夫氏はロッテホテルを上場させ、ロッテホールディングスの関与度合いを低めようとしたのだ。

 そのロッテホテルが主力とするのが免税店事業である。関係者によると、じつは韓国ロッテはお家騒動勃発後にグループの司令塔である政策本部内に「経営権紛争関連会議」を発足させ、難局を乗り切るための重要施策をそこで話し合うようになった。まず議題に上ったのは高齢の武雄氏を後見制度申し立てにより無力化する工作だ(16年8月、限定後見が開始決定)。それとともにホテルロッテ上場計画に伴う免税店の新規許認可に関する件が、出席者の重大関心事だったようだ。

 というのも、ロッテホテルは上場に先立ち「ノンディール・ロードショー」と呼ばれる投資家とのミーティングを重ねていた。そこではロッテホテルで市場から高い評価を得られるのは免税店事業だけだという指摘が出ていた。このため会議出席者は新規許認可の取得に注力すべきとの考えに傾いたようだ。その際、1200人に上る雇用創出効果を強調することも話し合われたという。

 免税店に関する件は少なくとも2016年2月17日の会議で話し合われていた。韓国ロッテが崔被告の関連財団に約7億円の追加拠出を行ったのは5月のことだ。その翌月10日、韓国ロッテは不正資金問題で検察により一斉家宅捜索を受け、それと前後して前述の約7億円は財団側から返金されていた。

今後の展開

 今回、昭夫氏が実刑判決を受けたことで宏之氏側は再び攻勢を強めることだろう。従業員持株会の切り崩し工作だけでなく、昭夫氏の不在により船頭を失った佃氏以下の経営陣への働きかけも行うかもしれない。とはいえ、経営復帰がそれほど簡単でないのも確か。宏之氏はこれまで自身と武雄氏の復帰を一体で考えてきた。要は創業者の威光なくしては、自らの指導力がおぼつかないと自覚しているのである。

 おそらく今後の展開として最もありそうなのは、宏之氏が株主総会で異議を申し立て続ける一方で、昭夫氏不在のまま現経営陣が舵取りを続けるというものだ。判決後、ロッテホールディングスは「大変重く受け止めている」などとするごく短いコメントを公表しただけである。朴政権と接近した韓国ロッテは対北朝鮮政策の一環で導入されたTHAADミサイルの発射施設をグループが所有するゴルフ場に受け入れた。これは中国政府の逆鱗に触れ、現在、現地で展開する韓国ロッテの店舗は大量休業に追い込まれている。ただでさえ、課題山積のところ、昭夫氏の実刑判決で経営はさらに停滞を余儀なくされることだろう。

 宏之氏の支配力を弱める外部資本の導入は資金調達もできるだけに一見、一石二鳥だ。しかし、それは資本面におけるグループの結束を損ねる面もある。

 じつのところ、お家騒動乗り切りのための資本政策がなくとも、すでに日韓ロッテグループは韓国での主要企業上場や相次ぐM&Aにより外部資本をかなり導入している。たとえば2017年3月期、日韓ロッテグループの総体であるロッテホールディングスの連結決算を見ると、2433億円の純利益を上げているものの、そのうち親会社株主に帰属する分は818億円にとどまる。日韓の経営が別々に分かれているだけでなく、グループには強い遠心力が働き始めている。海峡を跨ぐ異形の財閥は、すでに緩やかな解体過程にあると見ることも可能だ。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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