東京地検特捜部と公正取引委員会は昨年12月、スーパーゼネコン4社(鹿島建設、大成建設、清水建設、大林組)を強制捜査した。狙いは、JR東海から内部告発が寄せられたリニア中央新幹線の工事における談合事件の摘発である。
その直後から、土屋幸三郎・大林組副社長、大川孝・大成建設元常務、大澤一郎・鹿島建設土木営業本部副本部長、井手和雄・清水建設元専務らへの事情聴取が始まった(肩書は事情聴取時点)。
4人は2014~15年ごろ、JR東海が発注するリニア中央新幹線の品川、名古屋両駅の新設工事について、談合で事前に受注予定者を決め、各社がJR東海に示す工事の見積額を調整することで合意。リニア工事は昨年までに24件が発注され、4社は3~4件ずつ受注した。
だが、スーパーゼネコン側の足並みが乱れた。まず、大林組が法人として談合を認め、独占禁止法の課徴金減免制度に基づき、公取委に違反を自主申告した。続いて清水建設も談合を自主申告した。
特捜部は、4社のリニア担当者のなかで、容疑を否認していた鹿島建設と大成建設の2人を逮捕・起訴した。
18年3月期決算の各社の見通しは以下のとおり。
※( )内は前期比
鹿島建設 売上高…1兆8300億円(0.4%増)、営業利益…1360億円(12.5%減)
大成建設 売上高…1兆5800億円(6.2%増)、営業利益…1400億円(0.6%減)
清水建設 売上高…1兆6000億円(2.1%増)、営業利益…965億円(25.1%減)
大林組 売上高…1兆9150億円(2.3%増)、営業利益1345億円(0.6%増)
各社とも、指名停止の件数と規模によっては、業績見通しの下方修正を迫られることになるだろう。
いち早くミソギを済ませた大林組
突出した行動をとったのは大林組である。いち早く談合を認めた。最初に談合を自供すれば課徴金を免除されるからだ。
清水建設も談合を認めたが、鹿島建設、大成建設は一貫して「談合はなかった」との主張を続けている。両社は「大林組が最初に談合を認めて他の3社を巻き込んだ」と怒り心頭だ。
大林組はかつて「談合の帝王」と呼ばれた。その経験からか、捜索を受けたときの対応についてのノウハウが身についている。「捜査当局とは争わない」「談合はあっさり認める」という2点だ。その代わり、「これだけは守る」という防衛ラインがある。それは、創業家に責任が及ばないようにすることだ。
創業家は「君臨すれども統治せず」を貫いてきた。ところが05年6月、社長経験のない大林剛郎会長に最高経営責任者(CEO)の肩書がついた。
その後、07年の談合事件で、大林氏は会長を辞任し、CEO職も返上した。仮に、この時点で大林氏がCEOに就いていなければ、会長を辞任することはなかったといわれている。経営責任をとるのは番頭たちと決まっていたが、最高経営責任者の地位にある以上、引責辞任せざるを得なくなった。そのため、「つかの間の大政奉還」といわれた。
大林氏は09年に代表権を持つ会長に復帰したが、CEOという肩書はつけず、元の「君臨すれども統治せず」の体制に戻った。
リニア中央新幹線の建設工事をめぐる談合事件で、東京地検特捜部の捜査を受けた大林組は1月23日、白石達社長が3月1日付で辞任すると発表。後任に蓮輪賢治取締役専務執行役員が昇格した。
大林組は07年、大阪府枚方市の清掃工場建設工事をめぐる官製談合を摘発され、当時の脇村典夫社長が引責辞任し、白石氏が後任社長に就任した経緯がある。その白石氏が11年後に再び談合を理由に辞任した。談合の後始末をするために社長になり、談合の責任を取って社長の椅子から下りるという異例の事態となった。
白石氏は6月下旬の株主総会後に相談役へ退く。リニア工事の土木部門を担当していた土屋幸三郎副社長は1月23日付で辞任した。
創業家出身の大林氏が引責辞任することはなかった。創業家の責任は不問にし、慣例に従い番頭たちが腹を切って創業家を守ったのである。
大林組の契約辞退も、どこよりも早かった。昨年12月、徳島県の徳島東署の整備事業を落札した大林組を代表とする共同企業体(JV)が契約を辞退した。その段階で辞退しても違約金は発生しない。リニア談合で大林組の役員が逮捕されて同社が指名停止処分を受けた場合には、10億円程度の違約金の支払い義務が生じる可能性があった。それを見越して契約を辞退したのだ。
大林組は、社長と副社長の首を差し出してミソギを済ませた格好だ。
もし、今後のリニア工事の契約で、事件に関与したスーパーゼネコン4社を指名停止(指名回避)処分とすれば、リニア中央新幹線の27年としている開業は、大幅に遅れることになるかもしれない。
(文=編集部)