それらの批判に負けず、MRJはようやくロールアウトした。しかし、その後もパッとしない。MRJは「もうすぐ」「間もなく」と期待をもたせながら、延期に次ぐ延期を繰り返している。その様子は、「まるで、ソバ屋の出前」(前出・経済誌記者)。そのためマスコミの間では「MRJは、このまま飛ばない可能性が高い」「単なる金食い虫」との認識が強まる一方だ。
三菱重工が事業化のために設立した子会社は、揃いも揃って不振に喘ぐ。子会社だけなら、三菱重工の傷は浅い。だが、ついに三菱重工本体にも不振が忍び寄っている。
今年に入って、三菱重工は祖業である造船事業を、横浜に本社を構える三菱造船と長崎に本社を構える三菱重工海洋鉄構の2社に分社し、子会社化した。三菱重工が造船業を分社・子会社化したことを「祖業を捨てた」と判断する関係者も少なくない。今後、2社がどのような成長戦略を描くのかは不明だが、造船業界はM&A(合併・買収)を加速させており、他社に飲み込まれる可能性も指摘されている。
また、三菱重工はエネルギー事業でも苦しい立場にある。三菱重工は日立製作所と共同で火力発電を手がける三菱日立パワーシステムズを14年に設立。火力発電では世界3位の規模を誇る同社だが、18年3月期の営業利益見通しは大幅に下方修正した。東芝がコケた原発事業でも、三菱は同じ轍を踏もうとしている。
御三家の長男である三菱重工が醜態を晒しているなか、次男坊の三菱UFJ銀行もマイナス金利で苦しんでいる最中だ。
三菱財閥内の政権交代
そんな沈滞ムードがはびこる三菱御三家のなかで、ひとり気を吐くのが三男坊の三菱商事だ。
三菱自は不祥事を起こして日産グループ傘下になったが、それでも三菱重工が一定の株式を保有していた。このほど、三菱重工は保有する株式を三菱商事に売却する。業界内では総合商社は7大商社と言われるが、現在のトップは伊藤忠商事。しかし、伊藤忠は非財閥系であり、歴史や組織力を勘案すると「総合力は三菱商事が格段に上。組織力は段違い」とライバルの総合商社社員は口にする。
三菱商事は食料ビジネスも絶好調。ノルウェーのサーモン養殖業者に傘下におさめ、コンビニ大手・ローソンも完全子会社化した。さらに、中国でも食料分野を拡大させている。従来から三菱商事が得意としている海外におけるガスや石炭などの資源の権益確保にも余念がない。
また、資源の権益確保のみならず三菱重工の領域であるエネルギー事業にも積極的に進出して、勢力の拡大を図っている。
三菱重工の不振によって、三菱グループ内のパワーバランスが変化を見せている。三菱重工から三菱商事へ――。三菱グループ内での政権交代が、現実味を帯びてきた。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)