鈴木敏文・康弘親子の“遺産”であるEC(電子商取引)モール、「omni7(オムニ7)」の売上高がやっと1000億円の大台に乗った。
セブン&アイ・ホールディングス(HD)の2018年2月期連結決算で、グループ横断のECモール「オムニ7」を通した売上高が前年同期比11.3%増の1087億円となった。16年2月期の854億円、17年同期の976億円から、ようやく大台に乗せた。
EC売上高のうちセブンネットショッピングが同56.3%増の220億円、イトーヨーカドーは同69.1%増の45億円、アカチャンホンポは同11.4%増の62億円、そごう・西武が同26.2%増の35億円、ロフトは同69.3%増の10億円、食品宅配のセブンミールは同0.5%減の265億円。イトーヨーカドーのネットスーパーは同1.1%減の442億円だった(売り上げは億単位以下を切り捨て。合計数値とは一致しない)。
ライバルのアマゾンジャパンは17年春に生鮮食品などを取り扱う「Amazonフレッシュ」を開始。これに対しセブン&アイHDはオフィス通販のアスクルと組み、同年11月から食材の宅配サービスに乗り出した。いまや食品宅配は、百貨店、スーパー、コンビニエンスストアなどが参入し、乱立状態だ。そのため、オムニ7の食品通販は伸び悩んでいる。
16年11月に完全子会社にしたカタログ通販、ニッセンホールディングスの売り上げは含まれていない。オムニ7のラインアップを強化するために買収したが、業績不振が続いている。ニッセンの18年2月期の売り上げは同26.6%減の1022億円、営業損益は53億円の赤字(前期は123億円の赤字)。再建のメドが立たなければ、切り離しが課題となる。
「コンビニエンスストア生みの親」であるカリスマ経営者、敏文氏が力を入れていたグループのPB商品である「セブンプレミアム」の売り上げは、同14.8%増の1兆3200億円となった。そしてもうひとつ、力を入れていたオムニ7は期待外れだった。
オムニ7に現経営陣は消極的
セブン&アイHD会長兼最高経営責任者(CEO)だった敏文氏の持論は、「ネットを制するものがリアルを制する」だった。そこで、インターネット通販と実店舗を融合させるオムニチャネル戦略を推進した。オムニチャネルとは、スマートフォン(スマホ)の普及を背景に、ネットやカタログ、実店舗などあらゆる販路を組み合わせ、いつでもどこでも買い物ができるようにすること。
セブン&アイHDは、オムニチャネルの準備に数年をかけ、15年秋から本格的な展開を始めた。オムニチャネル事業は、「売り上げ1兆円」が目標だった。
一貫してIT分野に携わってきた次男の康弘氏が、セブングループが総力を挙げて取り組むオムニチャネル戦略の総指揮官になった。
中間持ち株会社のセブン&アイ・ネットメディアが、子会社のセブンネットショッピングを吸収合併。吸収される側にいた康弘氏が14年3月、吸収する側のセブン&アイ・ネットメディアの社長に就任するとともに、セブン&アイHDの執行役員に昇格した。
セブン&アイHDの孫会社の社長にすぎなかった康弘氏は、子会社の社長に格上げとなり、本体の執行役員にも名を連ねた。さらに14年12月、康弘氏のために新設された最高情報責任者(CIO)に就いた。そして、15年5月セブン&アイHDの取締役に昇格。わずか1年余りで“三段跳び”の異例の大抜擢となった。
オムニチャネル事業で売り上げ1兆円を達成した暁に、敏文氏の後継者として康弘氏が社長に昇格するというシナリオも取り沙汰された。敏文氏自身は否定しているが、“世襲”を画策しているとして社内外から批判が高まった。
16年5月、敏文氏は名誉顧問に退いた。敏文氏の後継者というかたちで社長に就いた井阪隆一氏は、オムニ7の見直しを宣言。康弘氏はセブン&アイHDを去り、「売り上げ1兆円」は幻と消えた。
オムニ7は鈴木親子の“夢の跡”なのである。
(文=編集部)