ネット通販のアマゾンを利用している人は多い。アマゾンには、「アマゾンカスタマーレビュー」という、購入者や読者がその商品のよしあしについて、レビューをするコーナーがある。これは商品の購入に参考になるかと思えば、そうではない。書籍などのレビューには、極端なバッシングや著者へのヘイトスピーチ、逆に過大すぎるくらいの絶賛にあふれるものもあり、「レビュー」として機能しなくなっているのだ。
アマゾンに怒る出版社
3月29日、出版社「影書房」のツイッターアカウントが、アマゾンに対する怒りをツイートしていた。日本法人アマゾンジャパンから商談を持ちかけられたものの、「商談は断りました。理由はいくつかあるけど、一番の問題はカスタマーレビュー欄のヘイトスピーチ放置問題」ということになったという。「やっぱり影響力の大きな会社にはきっちり社会的責任を果たしてもらいたい」と影書房のアカウントはつぶやく。
影書房は、アマゾンとの間で「ヘイトスピーチに関するアマゾンとのやりとり」を行ったことを公開している。李信恵『#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル』のカスタマーレビューをめぐって、著者や在日韓国人へのヘイトスピーチ、誹謗中傷があふれることを指摘し、削除要請書を出し、一方でアマゾンは「幅広い意見の交流が当サイトを活性化させる」「お客様の正直な感想として受け止めたい」として、削除には応じなかった。その後、アマゾンジャパン社長のジャスパー・チャン氏にも抗議しているが、CEOから直接返信はなく、「以前から回答している通りです」という返信がきた。
このことについて影書房に問い合わせると、「ヘイトスピーチ、差別扇動の問題は日本社会が解決すべき問題ではありますが、カスタマーレビュー欄に限定すれば、ヘイトレビュー放置の責任が、アマゾン側にあることはご理解いただけると思います」として、アマゾンに話を聞いてみよと返信された。
確かに、アマゾン側がヘイトを放置し、そういったレビューが影書房の本だけではなく、多くの本に見られる以上、アマゾンの側に責任がある。ヘイトだけではない。著者への誹謗中傷や難癖の類をアマゾンカスタマーレビューに書かれ、それをそのまま残しているアマゾンによって、商品の価値が毀損しているともいえる。
アマゾンジャパンの冷たい対応
筆者はアマゾンジャパンに対し、以下の3点を質問した。
(1)なぜ悪意のある差別的意識にまみれたレビューを放置しているのか
(2)ヘイトスピーチ対策法にもとづいて対策する予定はないのか
(3)海外のアマゾンではどう対処しているのか
するとアマゾンジャパンから、「どの本についてですか」「どのレビューについてですか」と質問されたので、具体的なレビューをいくつも示した上で次のように説明した。
「差別的意図をこめた書き込みを放置していることについて、貴社の見解を聞きたいというのが取材の意図です」
「私自身はアマゾンレビュー全体の問題を指摘したいのであって、こういった嫌がらせ・差別・筆者へのバッシングを目的としたレビューは、多々あることを承知しています。こういった事態に対して貴社はどう取り組んでいるのか、というのが私の本当に聞きたいことです」
それに対してアマゾンジャパンは、「カスタマーレビューについて」と記されたアマゾンのページへのリンクを貼り、「海外を含むグローバルのポリシーであります」と回答した。そこには、「許可されないレビューの例」があるものの、「差別」や「バッシング」に関する項目はない。ヘイトスピーチや著者へのバッシングでもいいからカスタマーレビューが盛り上がり、サイトのページビューが向上することのほうを重視しているのであろうか。
アマゾンカスタマーレビューは、書き方によっては商品の価値を毀損するものである。一方で本によっては、やたらと絶賛されているものがあり、支持者による「応援」が繰り広げられる状況にもなっている。極端な賛美や差別・バッシングの場になるのではなく、冷静で理知的な意見交換の場になるように、本来ならばアマゾンは対策を考えるべきではないか。
(文=小林拓矢/フリーライター)