「アマゾンなどがわれわれ既存の小売業に教えてくれたことがあって、『お前たちが言っているほどお前たちはお客様第一ではないし便利でもない』ということを突きつけてきた」
イオンの岡田元也社長は、昨年12月12日に開いた中期経営計画の説明会で、そう危機感をあらわにした。
言わずもがなだが、まっとうな商売をしている事業者にとって「お客様第一」という概念は経営の要諦だ。特に全国展開の小売企業ではなおさらのことだろう。それを売り場と経営で実践できなければ、どんなに良い商品・サービスを扱っていたとしても、いずれ顧客にそっぽを向かれ、企業の業績は悪化してしまうだろう。
ところで、イオンの業績は芳しくない。17年2月期の売上高は前年比0.4%増の8兆2101億円にとどまった。以前は2桁の成長率を見せることも珍しくなかったことを考えると、昨今の同社を取り巻く経営環境の厳しさのほどが業績動向からわかる。こうした厳しい経営環境を反映させた結果、今期の売上高の見通しは同1.1%増の8兆3000億円と寂しいものになっている。
なぜイオンの売上高は低成長に甘んじているのだろうか。その理由として、インターネット通販事業者が台頭していることが巷間で言われている。イオンではなくネット通販で買い物を済ませている人が増えているというのだ。これはその通りだろう。
それは特に衣料品部門において顕著で、イオンの中核企業であるイオンリテールはアマゾンやゾゾタウンなどに顧客を奪われ、衣料品の売上高は大きく落ち込んでいる。17年2月期の衣料品売上高は3402億円で、5年前の12年2月期からは13%も減っている。食品部門や住居余暇部門の売上高は概ね横ばいなので、衣料品部門の落ち込みのほどがわかる。
イオンの中核事業であるGMS(総合スーパー)が時代にそぐわなくなっていることも低成長の要因となっている。GMSには「なんでも揃っているけれど、欲しいものがない」と揶揄されて久しい。同社はGMSの構造改革や、そもそもGMSからの脱却を図っているが、なかなか実を結ぶまでには至っていないようだ。17年2月期のGMS事業の売上高営業利益率は0.09%と、ごくわずかでしかない。
「お客様第一」ではなかったイオン
これまで挙げたように、イオンの低成長の要因は「ネット通販が台頭していること」と「時代にそぐわないGMSを抱えていること」という2つの事象に答えを求めることができるが、もうひとつ根本的な問題を抱えていることも指摘しておきたい。
それは、冒頭の岡田社長の発言にもあったが、「お客様第一が実践できていないこと」である。同社は企業理念において「お客様第一」を掲げているが、本質的にそれが売り場と経営で実践できていない。
それを象徴する出来事がグループ会社のイオンライフで起きた。新聞広告に「追加料金不要」と記載しながら実際には別料金がかかるケースがあったとして消費者庁は12月22日、イオンライフに対し、同社が「イオンのお葬式」の名称で供給する葬儀サービスの表示について、景品表示法に違反する行為が認められたとして、再発防止を求める措置命令を出したのだ。
ここで「イオンのお葬式」のビジネスモデルに簡単に触れておく。同サービスは、イオンライフが直接葬式を施行するわけではない。同社はあくまでブローカーにすぎず、実際の葬式を施行するのは同社と提携する全国約560社の葬儀社(18年1月時点)だ。顧客は葬式の料金を葬儀社へ支払う仕組みとなっている。イオンライフは葬儀社から手数料を得ていると考えられる。
このようなビジネスモデルのため、追加料金を請求したのは葬儀社だと考えられる。イオンライフは関知していなかったのかもしれない。しかし、当然ではあるが、最終的な責任はイオンライフにある。報道によると、全体の4割ほどで追加料金が発していたということなので、そういった状態をのさばらせていた同社の罪は重いと言わざるを得ない。「イオン」の名を冠していることもあり、総帥企業のイオンも同罪だろう。
イオンライフは顧客からアンケートを取るなどして、追加料金が発生していないかを厳しく管理する責任がある。「追加料金不要」と記載していたのだから当然だろう。たとえそのような記載をしていない場合でも、顧客に十分納得してもらった上で葬式を執り行うべきではないか。いずれにしても公取委から措置命令が出たということは、顧客不在の論理がまかり通っていたと批判されても仕方がないだろう。
「イオンのお葬式」のビジネスモデルそのものが「お客様第一」を実践できないようになっているとも考えることができる。前述した通り、イオンライフはあくまでブローカーにすぎないため、最終消費者に対するサービス品質を同社が全面的に管理することができない。「お客様第一」を真に実践するのであれば、同社自らがサービスを提供するべきだろう。それができないなら葬儀業に手をつけるべきではないのではないか。
セブン&アイとの決定的な差
イオンに話を戻す。ブライベートブランド(PB)商品においても、同社の「お客様第一」の弱さを垣間見ることができる。同社はPB商品「トップバリュ」をグループ各社で展開しているが、競合のセブン&アイ・ホールディングスのPB商品「セブンプレミアム」と比較すると、イオンの弱さが顕著に浮かび上がってくる。
セブン&アイは顧客の声をPB商品の開発に反映させるために、09年10月に顧客参加型のコミュニティサイト「プレミアムライフ向上委員会」をグランドオープンした。17年4月にはコミュニティを刷新し、「セブンプレミアム向上委員会」にリニューアルしている。顧客から意見や要望を能動的に聞く体制を古くから構築し、PB商品の開発に生かしてきたのだ。
一方、イオンでは本格的な取り組みは遅れていた。コールセンターや店舗に寄せられた顧客の声を反映させる程度で、セブン&アイのように本格的な体制は構築できていなかった。家庭での使用状況を聞き取る調査と店頭での聞き取り調査を組み合わせた「商品カルテ」を作成し、そこで得られた顧客の声をPB商品の開発に反映させる取り組みを本格的に始めたのは14年ごろからだ。遅きに失した感が否めない。
両社の取り組みの違いが、PB商品の売り上げ動向に違いを生じさせている。セブンプレミアムの16年度の売上高は前年比14.9%増の1兆1500億円だった。大きく増加している。一方、トップバリュの16年度の売上高は6.3%減の7156億円で、2年連続で前年を下回った。規模と成長力の両方でセブンプレミアムに軍配が上がっている。セブン&アイは顧客の要望を第一と考え、顧客の声をしっかりと取り込んできたからこそではないだろうか。逆に言うと、イオンの拙さが浮き彫りになったかたちだ。
こうしたことから、イオンが掲げている「お客様第一」の理念が絵に描いた餅になっていることが同社の苦戦の大きな要因になっていると筆者は考える。「お客様第一」という言葉を掲げるだけでなく、売り場や経営で持続的に実践していくことがイオンには求められているのではないだろうか。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)