ゴーン氏は翌16日の記者会見で「アライアンスは持続可能かという疑問に答えていきたい。ルノー、日産、三菱に加え日仏政府の支持が必要だ」と述べ、仏AFP通信の取材に対して「すべての選択肢がありタブーはない」とし、新たな経営体制に移行する可能性があることを示唆した。
これを受けて、ゴーン氏がCEO再任のためにフランス政府に寝返り、日産をルノーに統合してフランス政府に売るという論調となり、ゴーン氏に対する評価が反転していく。そしてゴーン氏の逮捕後、ゴーン氏がルノーと日産の経営統合の検討を早急に進めていたことが明らかとなり、経営統合を阻止するために日本サイドが先手を打ってゴーン氏を逮捕したというストーリー、いわゆる「国策捜査説」が浮上する。
具体的には、統合の動きを経済産業省OBで日産社外取締役の豊田正和氏から入手していた経産省が、その計画をストップさせるために、ゴーン氏をあの時点で逮捕する必要があり、特捜部の協力を得て、金商法違反で逮捕したという見方だ。もし事実であるならば、日産経営陣と経産省の強い意思があったといえる。
この半ば奇襲の逮捕で日本が先手を打ったわけだが、ルノーと日産の経営統合は私企業の問題ではなく、日本とフランスの両政府を巻き込む国家間の問題となった感がある。
そんな状況を裏付けるかのように、そして、このタイミングで、20年の東京五輪・パラリンピックの招致をめぐり、フランス司法当局が日本の招致委員会委員長である竹田恒和・JOC(日本オリンピック委員会)会長を訴追する手続きを開始したと報じられ、ゴーン氏逮捕に対するフランス政府による報復ではないかという見方も出ている。ちなみに竹田氏は報道をゴーン容疑者同様に否定しており、15日に会見を開き「自ら潔白を証明すべく全力を尽くす」と語った。
ゴーン氏を「日産を私物化した大悪人」に仕立て上げ、ルノーとフランス政府が不利になることで日産の有利に問題を解決できると日本人経営陣が考えているとすれば、グローバル企業の経営者とは思えない甘さである。
報道によれば、日産はゴーン氏の不正に関する内部調査結果をルノー取締役に直接説明する方針であったが、ルノー側の意向で弁護士を通じての提供となったことについて、日産の西川廣人社長は「ルノーにも聞く姿勢を持ってもらいたい」と発言しているという。しかし、西川社長はルノーからの臨時株主総会開催要求を拒否し、その理由をきちんと説明していない。筆者には、特捜部、マスコミ、日産が躍起になって日本国内向けのストーリーを必死につくる意味がわからない。どう考えても交渉の役には立たない。
次回は、今回の日本側の奇襲作戦が、日産と日本政府にとって果たして有利になるのかを検討してみたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)