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デサント、伊藤忠の“採算度外視”の敵対的TOBに敗北が濃厚…阻止は困難な状況に

文=編集部
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王子製紙の敵対的TOBを阻止した三菱商事

 06年には、王子製紙が北越製紙(現北越コーポレーション)に敵対的TOBを仕掛けた。

 製紙業界は、大昭和製紙を統合した日本製紙と、旧王子系が結集した王子製紙の2強体制ができつつあった。業界首位に返り咲いた王子製紙が首位の座を不動にするために、業界6位の北越製紙の買収に乗り出した。

 06年7月19日、王子は北越に経営統合を打診したが、北越は反発。7月21日、北越は三菱商事への新株発行による増資(第三者割当増資)を決議した。その直後の7月23日、王子がTOBによって北越の経営権を支配し、経営統合する計画を発表した。

 王子がこの計画を達成するためには、新株を引き受けた三菱商事の経営参加が障害となる。そこで王子は北越と三菱商事に第三者割当増資の撤回を求めたが、両社ともこれを拒否した。

 王子は8月2日、敵対的TOBを強行。8月7日、三菱商事が新株を引き受け、三菱商事は24.4%を保有する北越製紙の大株主となった。9月5日、王子によるTOBは不成立に終わった。王子は敗れたのだ。

 王子の敵対的TOBを阻止する“白馬の騎士”の役割を、三菱商事が演じた。

敵対的TOBの成功例はエスエス製薬

 M&Aの助言会社であるレフコによると、1985年以降、国内で敵対的TOBにより経営権を握ったのは、独製薬大手ベーリンガーインゲルハイムがエスエス製薬の筆頭株主となったのを含めて数例に限られるという。

 エスエス製薬は、コスモ信用組合の理事長だった泰道三八氏の率いるグループが経営権を握っていた。泰道氏の孫が小泉純一郎元首相の元妻。俳優の小泉孝太郎氏や政治家の小泉進次郞氏は泰道氏の曾孫にあたる。

 1995年、コスモ信組が経営破綻。96年、独ベーリンガーインゲルハイムがエスエス製薬の筆頭株主となった。

 独ベーリンガー社は2000年1~2月にかけてTOBを実施、持ち株比率を19.6%から35.9%に引き上げ、エスエス製薬を傘下に収めた。金融機関は独ベーリンガー社の買い付けに応じなかったが、個人株主が持ち株を一斉に売却した。

 買収先に事前承諾を得ない敵対的TOBが成功したのは、国内上場企業に限定するとエスエス製薬が初めてといわれた。

 01年、ベーリンガーの持ち株比率は50%を超える。10年、ベーリンガーインゲルハイム・ジャパンインベストメント合同会社がTOBでエスエス製薬の株式93%を保有。同年9月、エスエス製薬は東証一部を上場廃止となる。

 17年1月、ベーリンガーインゲルハイムの一般用医薬品事業と仏サノフィの動物用医薬品事業との事業交換に伴い、エスエス製薬はサノフィのグループ会社となった。

 伊藤忠はデサント株式を敵対的TOB直前の株価より5割高い1株2800円で買い付けると提案した。「採算度外視」(M&A市場に詳しいコンサルタント)といった冷ややかな見方もある。

 しかし、デサントが伊藤忠に対抗するには、この価格を上回るTOB価格を提示できる“白馬の騎士”を探さねばならない。至難の業だ。TOBが成立する可能性が高い。

 伊藤忠が口火を切って、東京マーケットでの敵対的TOBが本格解禁される日がやってくる可能性もある。
(文=編集部)

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