チョコ入りのクロワッサン「チョコクロ」で一世を風靡したカフェチェーン・サンマルクカフェ。同事業を展開しているサンマルクホールディングスは、カフェ業態のほかにも、和風イタリアンの「鎌倉パスタ」や回転寿司の「函館市場・宝田水産」など、さまざまなジャンルの飲食店を運営している。
そして、2021年7月には新業態の「点賛 神田西口店」をオープンさせた。
店名の「点賛」は中国のネット用語
点賛は、朝粥や手包み焼売、あんかけ中華そばなどの中華料理が食べられる創作中華レストラン。店名の「点賛」とは、「いいね!ボタンを押す」という動作を表した中国のネット用語だという。
点賛単体のホームページはないので、店の情報は少ない。サンマルクHDが運営している「石焼炒飯店」など中華系レストランをまとめたページと、サンマルクHDのホームページに店舗情報がある程度だ。店舗の最新情報は公式インスタグラムに投稿されるようだが、そちらもあまり頻繁には更新されていないようだ。
同店が店を構えている神田は、都内屈指の飲食店激戦区。昼時になれば、近くのオフィスで働く人々がランチに訪れ、コロナ禍以前は多くのビジネスパーソンが飲み歩いた繁華街だ。そんな神田の駅前徒歩1分という好立地に新業態の店をオープンした経緯は不明だが、実験店舗的な位置づけなのかもしれない。とはいえ「神田西口店」と掲げているだけあり、本格的なチェーン展開も視野に入れている可能性も考えられる。
運営側は大々的なプロモーションを打っていないが、21年8月に一般人がツイッターで点賛に関する投稿をしたところ、7000件近くの「いいね」を獲得し、SNSでは密かに話題を集めている。その投稿は、点賛で平日午前7時から10時限定(休日は9~11時)で提供されている“朝粥定食のコスパの良さ”に触れた内容で、プチバズを引き起こしていた。そこで、実際に点賛に足を運び、朝粥を食べてみることにした(価格は税込み)。
コスパ最強の「朝粥定食」は味濃いめ
点賛は、JR神田駅の西口にある「神田駅西口商店街」のアーケードをくぐってすぐ右手に位置している。西口の改札を出た瞬間に商店街のアーケードと派手な黄色の外観が目に入るので、迷うことなく見つけられた。
店内にはカウンター席がずらりと並んでおり、4人がけのテーブル席はひとつのみ。潔いほど一人客向けの店作りで、多人数での来店にはあまり向いていない印象だ。
筆者が来店したタイミングは午前9時半すぎ。通勤ラッシュも終わり、朝メニューの終了時間も迫っていたからか、先客はテーブル席に座っていた2人組客のみだった。
注文は、各席に設置されたタッチパネルで行う。朝メニューは、SNSで話題になった「朝粥定食」のほかにも「朝焼売定食」(539円)や「点賛餡かけ中華粥」(539円)、「チーズとトマトの肉味噌粥定食」(429円)などがあり、全6種類の中から選べる。そして、すべてのメニューにジャスミン茶が付いているので、ほぼワンコインで食後のお茶も飲めるのが特徴だ。
メニューを見て驚いたのは、ビールや紹興酒、ハイボールなどのアルコールを朝から提供している点。この日は誰も飲んでいないようだったが、朝からお酒の需要もあるのかもしれない。
筆者が注文したのは、SNSで話題だった「朝粥定食」。お粥と焼売2個、小皿に盛られた9種類の“付け合わせ”とジャスミン茶付きで539円のセットだ。
オーダーしてから約5分で料理が届いた。小皿には蒸した鶏肉や高菜炒め、ザーサイ、食べるラー油、キムチなどが盛られている。どれも日本人に馴染みのある“ごはんのお供”なので、お粥との相性も良さそうだ。
鶏ひき肉入りの白粥は、鶏の出汁で炊いた濃いめの味付け。本場中国の中華粥も鶏や干し貝の出汁で炊くため、本場の味を意識したレシピになっているのかもしれない。ただ、付け合わせの味も濃厚だったので、味的にはなかなかパンチの効いた朝食になりそうだ。
竹製のせいろで蒸された焼売は、同店の看板メニューのひとつ。素朴な味付けで食べやすかったが、肉汁が多くボリューム感もあるので、朝食としては2個で十分かもしれない。
おかずが盛りだくさんの朝粥定食は、量的に満足度が高いものの、食べ進むうちにひとつ問題が生じた。お粥の量があまり多くないため、付け合わせとのペース配分がうまくいかず、おかずが余ってしまったのだ。
特に干しエビの付け合わせは酒のつまみになりそうなほどしょっぱかったので、アルコールを頼んで酒の肴にしたいほどだった。「もしかして、このためにアルコールを提供しているのか?」と勘ぐってしまった。
ランチからはメニューが様変わり
筆者が20分ほど滞在している間、朝メニューの終了時間ギリギリに2人ほど来客があった。2人とも入店後すぐに注文して食事し、セルフレジでの支払いまで含めた滞在時間は10分ほど。混雑時とは状況が異なるとは思うが、客の回転が速く、レジ業務がないので店内のオペレーションもスムーズに行われていた。提供までの待ち時間が少ないので、自宅や勤務先の近くにあれば忙しい朝でも利用しやすいかもしれない。
ちなみに、昼以降のメニューからは「とろとろ玉子の角煮粥」(979円)や、焼売2個付きの担々麺(869円)、点賛焼売定食(979円)など、値段もボリュームもアップしたラインナップに変わってしまう。21年12月末現在、点賛の店舗は神田西口店のみなので、話題の朝粥定食が食べたい場合は朝の神田に行くしかない。神田が通勤経路の人や神田の住民以外には難易度高めのミッションになるが、興味がある人は行ってみてほしい。
点賛を運営しているサンマルクHDは、21年3月期連結中間決算で赤字を計上したことが明らかになっている。新型コロナ禍の緊急事態宣言中の休業が大きく響いて上場後初の赤字となり、今なお厳しい状況が続いているという。そんな中でオープンした点賛は、同グループの新機軸となるか。点賛とサンマルクの今後に注目したい。
(文=谷口京子)