国際情勢のリスク分析を行っている米コンサルタント会社ユーラシア・グループが発表した2022年の世界の「10大リスク」の第1位として、中国が新型コロナウイルスの感染封じ込めを目指す「ゼロコロナ政策」に失敗し、世界経済や各国の政情が不安定になることを挙げた。
中国国内の消費の落ち込みやサプライチェーン(供給網)の混乱といった事態が起これば、その影響が世界各地に波及し、経済不安やインフレの加速、格差拡大に対する不満が強まり、各地で政情不安を引き起こす恐れがあると警告した。
中国で不動産バブルが崩壊して金融危機が発生する。これが最も懸念されている事態だろう。巨額の債務を抱えた中国不動産大手、中国恒大集団の経営危機は、不動産バブル崩壊の予兆にほかならない。
恒大集団の経営危機の発端は20年8月。不動産価格の高騰がバブル崩壊を引き起こしたり、習近平国家主席が掲げる格差解消のスローガン「共同富裕」(ともに豊かになる)の実現の妨げになることを警戒した中国当局が、不動産融資の規制の強化に乗り出した。不動産のみならず、電気自動車や映画製作などに手を広げていた恒大の債務総額は35兆円(21年6月末)にまで膨れ上がっていた。
恒大の経営危機の回避に中国当局が直接、関与してきた。21年12月、広東省政府が経営指導のための監督チームを派遣、恒大は国有企業の高官で構成する「リスク管理委員会」を設置した。恒大の債務不履行が不動産バブル崩壊の引き金となり、金融危機が発生することを、未然に防ぐためである。
広東省政府主導で進む恒大集団の動きを、現地からの報道をもとに追跡してみよう。
・21月12日:広東省深圳市の本社をコスト削減のため市内の別のビルに移す。
・22年1月20日:海外債権者グループは、恒大が債務不履行(デフォルト)状態を解消する取り組みを加速しない場合、法的権利を守るために「あらゆる行動」を取る用意があり、法的措置も視野に入っていると警告した。
・1月21日:「恒大の海外資産を売却し対外債務の返済に充当する意向だ」とする広東省政府の関係者の話が報じられた。
・1月23日:恒大は国有資産管理会社、中国信達資産管理から取締役を受け入れることを明らかにした。
・1月26日:投資家向け電話会談で「半年以内に暫定的な再建案を作成することを目指す」と公表。
恒大集団は分割・解体へ
米ブルームバーグは1月27日、中国当局が恒大集団について「資産の大半の売却を通じた分割案を検討している」とした。恒大が本社を置く広東省当局が中央政府にこの再編案を提出。「上場企業である不動産管理と電気自動車(EV)の両部門を除いた大半の資産を売却するよう恒大に求める内容になっている」という。
不良債権受け皿会社、中国信達資産管理が主導するグループが「売れ残った恒大の不動産を取得する」。恒大の主要債権者の中国信達は、恒大の取締役会や債務問題に対処する「リスク管理委員会」のメンバーに加わっている。中央政府が今回の計画を承認すれば、許家印会長が25年前に設立した恒大集団の解体が始まることになる。
冒頭に挙げた世界の「10大リスク」の第4位は「中国の内政」だ。今年後半の共産党大会で習主席は異例の3期目に踏み出すことが確実視されている。習政権に対するチェック機能がほとんどないことが大きなリスクになるとユーラシア・グループは考えている。
今年、5年に1度の党大会を控え、習近平指導部は恒大の無秩序な破綻による国内金融市場や経済の混乱を絶対に阻止しなければならない立場にある。
(文=Business Journal編集部)