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中国、不動産業界発「連鎖倒産」が現実味…CP裏書き横行、不払いで債務膨張

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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恒大集団本社(「Wikipedia」より)

 中国の不動産開発大手、恒大集団の経営危機の影響は業界全体に広がりつつある。恒大集団は昨年11月に米ドル債の金利を支払わず、猶予期間も失効したため、フィッチ・レーテイングなどによって「部分的な債務不履行(デフォルト)」と認定された。一方、人民元債については利払いを続けるなどデフォルトを回避している。

 だが、中国の不動産開発企業のなかで比較的安全と考えられていた世茂集団が1月6日、信託会社から受けていた6億4500万元(約100億円)の融資の支払いを期限通り実行できず、デフォルトを起こしていたことがわかった(1月6日付ロイター)。中国の昨年12月の新築住宅価格は4カ月連続で下落するなど、不動産市場は低調となっている。このあおりを受けて世茂集団の12月の売上高は前年比68%減少した。物件の販売が伸び悩み、資金不足が深刻化したことから、世茂集団は今年に入り、居住用、商業用を含むすべての不動産プロジェクトを売りに出すという異例の動きに出ている(1月10日付ロイター)。

 不動産開発業界全体が苦境に陥っている状況を踏まえ、中国政府は不動産危機の封じ込めに向け、国有の不動産開発企業に対し、資金繰りに苦しむ民間の不動産開発企業から市場シェアを獲得するよう促している。広東省では国有企業によるプロジェクトの買収や企業合併を後押しするため、協議の場が設けられた(1月10日付ブルームバーグ)。

 中国政府はさらに、プロジェクトの買収や企業合併に用いるための借入れ資金を不動産業界に対する債務規制の対象から外すという決定を行い、銀行各行に対し不動産融資を増やすよう求めている(1月7日付ブルームバーグ)。中国人民銀行は昨年12月、市場に流動性を供給するため、基準貸付金利や預金準備率の引き下げなどの一連の措置を講じたが、同月の新規人民元建て銀行融資は1兆1300億元と前月の1兆2700億元から減少し、市場予想(1兆2500億元)を下回った。

 中国の不動産開発融資は少なくとも2四半期連続で減少したといわれているが、総量以上に注目すべきはその内容だ。中国の銀行は昨年12月、政府が定めた年間貸出枠を満たすため、新規の融資ではなく低リスクの金融商品を買い占めたようだ。融資に分類される銀行引受手形(銀行が支払いを引き受けた為替手形。日本では主に貿易取引に利用されている)への需要が急増、同手形の利回りは12月23日に過去最低の0.007%を記録した。銀行はより高い金利で独自のローンを発行して損失を拡大させるリスクを冒すよりも、低利回りの銀行引受手形の運用で我慢するとの選択をしたのだ。

地方政府に打撃

「不動産融資の不良債権比率は今年末までに2倍超に拡大する」との予測が出ているなかにあって、中国の銀行にとっての「他山の石」は中国民生銀行だろう。中国初の民営銀行として1996年に設立された中国民生銀行は不動産融資をテコに急成長を遂げたが、恒大集団を含む不動産開発大手への融資の損失が膨らみ、同行の株価は直近1年間で30%以上下落した。民生銀行にとっての今年の最優先課題は不動産債務残高の減少だ。

 不動産開発企業の不調で大きな打撃を受けているのは地方政府だ。地方政府は歳入の3分の1を土地使用権の売却収入に頼っているといわれており、不動産開発企業の資金不足は彼らの歳入不足に直結する。

 このため、地方政府は民間の不動産開発会社に代わって自らが設立した資金調達事業体(地方融資平台)に土地使用権を売却する動きを活発化させている。だが、地方融資平台は地方政府が簿外で資金を集める手段にすぎない。売り手と買い手が同じになっているという実態を問題視した中国の国有銀行は今年に入り、土地使用権を買い入れ、新規の不動産プロジェクト開発を目指す地方融資平台への融資に新たな制約を設けた(1月13日付ブルームバーグ)。

 不動産開発企業の多くが打撃を受け、地方政府の対策にも制約がかかる状況では、中国の不動産市場は、今後悪化することはあっても改善する見込みはないだろう。

CPの支払い延滞が急増

 不動産開発企業の返済余力が急速に悪化した影響で、短期資金を調達するコマーシャルペーパー(CP)の支払いを延滞している中国企業の数が昨年12月、前月に比べて26%増加した(1月12日付ロイター)ことも気がかりだ。CPは企業が短期資金調達の目的で発行する無担保の約束手形(償還期間は通常1年未満)のことだ。中国のトップ20の不動産開発企業が昨年に発行したCPの総額は前年に比べて40%増加して3360億元(約5.7兆円)となった。中国のGDPの3.5%に相当する。

 中国の不動産開発企業は、現金支払いの代わりに将来の期日までに履行を約束するCPを請負業者に受け入れさせることが多い。請負業者は受け取ったCPに裏書きをすれば自社の支払いに利用することができる。中国ではCPが10回以上裏書きされることもしばしばだという。

 CPを発行した不動産開発企業が支払期日が来ても支払わなければ、CPの保有者は裏書きをしたすべての会社に支払いを請求できる。このことはCPの不払いが元の債務の何倍も凍結させ、その結果、裏書きをした無数の企業が倒産に追い込まれるリスクが生じることを意味する。不動産開発企業の不振のせいで、中国全土に「連鎖倒産の波」が起き兼ねない状況となっている。

 不動産バブル崩壊の大波は中国国内にとどまる保証はない。ドイツのGDPにも匹敵する中国の不動産開発部門の不振が世界経済に与える影響は甚大なものになると覚悟すべきではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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