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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国の不動産企業、海外債券のデフォルト相次ぐ…世界の不動産バブル崩壊に警戒

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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中国・北京(「gettyimages」より)

 中国政府は10月26日、不動産開発企業に対し「外債を含めすべての債務支払いを履行する」よう通達を出した。支払いを履行できない不動産開発企業はその旨をただちに政府に報告することも求めたといわれている。花様年控股集団(ファンタジア・ホールディングス)がデフォルトを起こしたことで海外債権者の間で「自らの弁済順位が低くなっている」との警戒感が高まっていることを踏まえての措置だ。

 問題の発端となった恒大集団は10月21日、ドル建て債の8350万ドル(約95億円)の利払いを行い、海外の債権者を驚かせた。海外債権者の懸念を和らげるために中国政府が恒大集団に強く働きかけて、利払いを履行させたと噂されている。

 だが、これで事態が沈静化したわけではない。海外債券のデフォルトが相次いでおり、米サンフランシスコでは10月下旬、資金繰りが懸念される中国の不動産開発企業が10億ドルの資金を投じて建設中の高層タワーを、同企業の子会社が発行する社債の保有者が差し押さえる「事件」が発生している。

 資金繰り難に見舞われている不動産開発業界全体の11月の利払い額は、20億ドルを超える(11月1日付ブルームバーグ)。中国のジャンク級(投機的格付け)ドル建て債の利回りは急上昇し、11月5日に25.8%に達した。5月時点に比べて約3倍と急上昇しており、信用不安のなかで借り換えはほぼ不可能な状況だ。

 中国の不動産開発企業は国内の市場でも苦戦している。発行した社債の今年9月下旬までのデフォルト額は前年比約2.6倍の468億元(約8100億円)となったことから、人民元建て債までもが売り込まれる状況となっている。

 売上高上位30社の不動産開発企業の3分の2が、中国政府が債務の伸びを抑制するために設定した3本のレッドライン、(1)負債の対資産比率は70%以下、(2)純負債の対資本比率は100%以下、(3)手元資金の対短期負債比率は100%以上のいずれかに抵触しており、300社以上の不動産開発企業が経営難に直面しているという。

急速に業績が悪化

 中国の不動産会社の業績も急速に悪化している。上場する118社の今年1~9月期の連結純利益は前年比30%減少した。4分の1にあたる29社が最終赤字となった。業界全体の債務リスクが意識されるようになったことから、比較的健全な経営を続けてきた不動産開発企業にも悪影響が及んでいる。代金を支払っても住宅が手に入らないリスクが高まったことで、個人が住宅購入や代金の支払いをためらうようになっており、住宅販売は大きく減少しているのだ。

 中国の不動産開発企業にとって、毎年10~12月期は年間の業績目標達成に向けた追い込みの時期だ。今年9月以降、中国各地で不動産市況の冷え込みが強まっていることから、「苛烈な値引き合戦が行われる」との観測が出ている。

 S&Pグローバル・レーティングは10月27日、「格付けを付与する中国の不動産開発企業の住宅販売額が当初の予測を20%下回った場合、3分の1の企業が流動性の逼迫に直面する」と警告を発した。住宅販売額が20%下回るのは最悪のシナリオとされているが、負の連鎖が広がる現状からすれば、その可能性はけっして低くないだろう。

 中国の不動産市場の規模は約55兆ドルと世界一だ。米国の2倍を誇る巨大市場に異変が生じれば、世界の不動産市場に影響が及ばないわけがない。恒大集団をはじめ中国の不動産開発企業は2013年から18年にかけて、世界の主要都市で活発に投資を行い、競い合うように高層ビルを建設してきた。

 中国の不動産開発企業の海外不動産投資のピークは2016年だった。前年比約50%増の330億ドルだったといわれている。投資先は、米国、香港、S&Pグローバル・レーティングなどだ。その後、中国政府が不動産開発企業の過剰債務の取り締まりに乗り出すとその動きは減速した。

香港で不動産価格の下落始まる

 資金繰りが厳しくなった不動産開発企業にとって、残された手段は優良物件の売却による資金の確保だ。

 中国政府は不動産開発企業に対し、中国人に販売した未完成の不動産を完成させる資金を確保するため、海外資産を売却するよう迫っているとの憶測が流れている。恒大集団をはじめ中国の不動産開発企業がこぞって香港の物件を売却していることから、香港の不動産価格の下落はすでに始まっている。

 ロンドンでは上海の不動産開発企業が物件の一部を売りに出している(10月31日付ロイター)。ニューヨークやシドニーでも今後同様の動きが出るだろう。不動産バブルは中国だけの現象ではない。世界でも新型コロナウイルスのパンデミックを契機に広い居住空間への需要が盛り上がり、各地で不動産価格が高騰している。

 10月13日にグローバル不動産バブル指数を公表したUBSグループによれば、バブルのリスクがもっとも高いのはドイツのフランクフルト、東京も第10位となっており、これらの都市ではいつ深刻な価格調整が起きてもおかしくないという。

 住宅価格が歴史的高値となっている米国でも、コロナ禍で活況を呈していた地域で価格崩壊が起きる事態が生じている(11月4日付ブルームバーグ)。世界の不動産市場に「暴風雨警報」が出始めているタイミングで、中国の不動産開発企業が「叩き売り」を本格化させれば、世界の不動産バブルは一気に崩壊してしまうのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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