中国経済は11月に一段と減速した。11月の小売り売上高は前年比3.9%増と市場予想中央値(4.7%増)に届かなかった。新型コロナウイルスの流行でサービス業や飲食店などの販売が鈍ったことなどで10月の4.9%増からさらに減速した。その影響が雇用にもあらわれている。11月の都市部の新規雇用は前年比18%減となり、3カ月連続マイナスとなった。
もっとも心配なのは、中国経済の屋台骨ともいえる不動産分野の低迷ぶりだ。政策引き締めは若干緩和されたといわれているが、不動産市場は冷え込んだままだ。11月の中国新築住宅平均価格は前月比0.3%下落し、2015年2月以来の大幅な落ち込みとなった。国内上位100都市の11月の住宅在庫も5年ぶりの高水準だった。
売上高上位100社の11月の不動産販売総額は前年比38%減となり、10月(前月比32%減)よりも落ち込み幅が大きくなった。11月の40都市での新築住宅成約面積は10年来の低水準となったが、専門家は成約量はさらに減少すると見ている。不動産開発会社の破綻懸念により、買い手の側に「将来住宅を受け取れないリスク」が意識され、住宅契約に消極的になっているからだ。住宅販売の不振は、用地購入や建設資金として投入した資金の回収が遅れ、不動産開発企業の信用収縮がいっそう悪化することを意味する。
中国人民銀行は15日から銀行の預金準備率を0.5%引き下げた。これによって1.2兆元(約21.4兆円)の流動性が市場に供給されるが、銀行が過剰債務を抱える不動産開発会社に流動性を供給する可能性は低い。
不動産市場の不調と労働力不足
中国経済の高度成長を長年支えてきたのは不動産部門だ。GDPの約3割を占める。中国の都市部住民の投資資産の約8割が住宅だとされており、不動産価格が下落すれば、逆資産効果により消費はさらに落ち込んでしまうのは目に見えている。
不動産分野での記録的なデフォルト発生は、中国に対する海外投資家の見方を悪化させている。格付け会社フィッチ・レーティングスは12月9日、中国の不動産開発企業の経営破綻問題のきっかけとなった中国の恒大集団の格付けを「一部債務不履行」に引き下げた。
中国当局は「恒大集団が救済されることはないが、関連リスクは限定的だ」と火消しに躍起だが、海外投資家の間で中国不動産開発業界への警戒感は高まるばかりだ。香港に上場している不動産開発会社である世茂集団の社債価格が13日の取引で突然急落し、広範な中国社債売りにつながっている。世茂集団は中国で13番目に大きな不動産開発会社であり、比較的財務力の強い借り手とされてきたが、子会社との不明朗な取引が「コーポレートガバナンス上の懸念すべき問題」と糾弾される事態になっている。
中国の不動産開発業界は2022年に約400億ドルの償還を控えているが、これを無事に乗り切れることができるとは思えない。2021年9月時点で、海外の投資家が保有する中国の債券と株式の総額は1兆2000億ドルに達しているが、米ドル債市場で不動産開発企業が相次いでデフォルトを起こすような事態になれば、中国企業全体のドル資金調達が困難になる恐れがある。
中国経済が減速するなかで、ひとり人気を吐いている製造業もその例外ではない。11月の鉱工業生産は電力不足が緩和されたことなどから前年比3.8%増となり、伸び率は前月の3.5%から加速した。だがドル資金が調達できなくなれば今後の成長に足かせとなる。
製造業にとっての最大のアキレス腱は労働力不足だ。中国の年間平均賃金は過去20年間で9倍に跳ね上がった。15~59歳の「生産年齢人口」が総人口に占める割合は過去10年で7%も縮小している。
労働市場における深刻なミスマッチも頭が痛い。熟練労働者が極端に不足しており、その規模は約2000万人に達している。影響は沿岸部を中心に顕著となっているが、政府が職業訓練教育の充実に努めてこなかったことから、教師の質が低下し、良い人材が育たないという事態になっている。
その一方で大学卒業生は増加するばかりだ。2022年の新卒者数は前年比167万人増の1076万人となり、史上初めて1000万人を超える見通しだ。だが新型コロナの感染拡大でここ数年続いている就職難がさらに悪化している。
中国史上かつてないほどの苦境
中国政府首脳が集まって経済政策の方針を策定する中央経済工作会議は、12月10日に発表した声明の中で「中国の経済発展は、需要縮小、供給リスク、市場の期待の低下という3つの圧力に直面している」ことを認めた。
中国最高指導部はこれに先立ち、12月6日に来年の経済政策に関する共産党中央政治局主催の重要会議を開き、「金融の安定をはじめとする『6つの安定』と国民雇用の保障をはじめとする『6つの保障』をしっかりと行う」という異例の申し合わせを行った。
「政治・経済・貿易・金融・エネルギーなどすべての分野で基本的な運営が不安定になっている」とする最高指導部の認識に「中国がかつてないほど苦境に陥っているのではないか」との憶測が生じている。政府中枢に近い清華大学の李稲葵教授(専門は経済学)も「今後5年間、改革開放が始まってからの40年来で最も困難な時期になる可能性がある」と危機感をあらわにしている。
人民日報は12月に入り、改革開放に関する評論記事を掲載したが、鄧小平氏ら元指導者の功績を讃えたものの、習近平国家主席についての言及はなかった。「経済の失速が原因で共産党内部の権力闘争が激化している」との観測が出ている。中国経済はついにハードランディングしてしまうのだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)