2日未明にKDDI(au)で発生した通信障害は、丸2日が経過した4日現在も完全復旧に至っておらず、音声通話が利用しづらい状況が続いている。
原因は、通信ネットワークのメンテナンスで機器の交換を行った際に発生した不具合。通話やデータ通信を制限する必要が出たため、最大約3915万回線でつながりにくい状態となった。影響はauやKDDIの格安ブランド「UQモバイル」「povo」に加え、KDDIの回線を利用する楽天モバイル、銀行のATM(現金自動受払機)など広い範囲に波及。3日夜までには復旧作業が完了したものの、完全復旧には至っておらず、現在も一部回線で音声通話が利用しづらい状態が続いている。
大手キャリアではソフトバンクが2018年に、NTTドコモが21年に大規模な障害を起こすなど、通信サービスを提供する以上は障害発生を完全になくすことは難しいが、障害発生からサービス復旧の間の利用者へのアナウンス、そして経営陣による会見などの対応が、世間からのキャリアに対する評価や信用度、批判の強弱を大きく左右するともいえる。
たとえば昨年のドコモの障害では、発生翌日に田村穂積副社長、ネットワーク本部長、サービス運営部長が会見を行い、低姿勢で謝罪の言葉を繰り返したことから、これが“無難に切り抜けた”と評価された。一方、キャリアではないが、昨年にATMに通帳やキャッシュレスカードがのみ込まれるという前代未聞のトラブルを発生させた、みずほ銀行では、坂井辰史・みずほフィナンシャルグループ(FG)社長と藤原弘治・みずほ銀行頭取が会見を行ったが、「障害をいつ把握したのか」との質問に対し、坂井社長が「(障害発生から約4時間経過した)当日午後2時すぎに一報のメールを受けた」「認識したのは午後4時頃」と返答。藤原頭取に至っては「午後1時半に“ネットのニュース”で知った」と明かし、批判の火に油を注ぐ事態となった。
「幹部があらゆる質問を打ち返せている」
そうしたなかで注目された今回の障害を受けてのKDDIの会見だが、障害発生翌日の3日、高橋誠取締役社長と吉村和幸取締役執行役員専務が会見に出席。約2時間におよぶ会見では終始、冷静かつ理路整然と質疑応答をこなし、さらには報道陣から質問が出なくなるまで会見を続けるなどして、SNS上では以下のように評価する声があがっている。
<KDDIに対する好感度がかなり上がった。幹部があらゆる質問を打ち返せているし(なにより驚いたのは社長がiOSとAndroidの仕様差分に言及した点)、慌てふためいたり助けを求めたりするシーンがまるでない>(原文ママ、以下同)
<現状把握、進捗と今後の解決を無駄なく即答。対照的に記者側の質問が幼稚且つ、火勢をあげようとする悪意を感じた程だ>
<本会見、むしろKDDIの株が上がったな>
<何だか許せる気持ちになりました>
<不快感も不信も起きない会見はこういうことだったのか>
<こんな謝罪会見見たことがないというぐらい、幹部が質問に対して淀みなく分かり易く答えていて、誰が答えるのかの連携もスムーズで、真摯に受け止めていることが伝わる会見>
<一般人にも判りやすいレベルまで落とし込んで回答してる こういう人がフロントに立って対応してくれると現場も安心して作業出来るだろうな>
<固定回線のISPにKDDIを選んでてよかったかも>
全国紙記者はいう。
「前社長で現会長の田中孝司さんは通信業界の第一人者といえる技術者でもあり、以前からライバルのソフトバンクグループ社長の孫正義さんについて“孫さんは技術がわからない”と言って憚らない名物社長だった。会見に出た高橋社長と吉村専務も技術畑出身で、特に高橋社長はKDDIの前身DDI時代に同社創業者で京セラ名誉会長の稲盛和夫さんの薫陶を受けてきた。そうしたさまざまな要素がうまく重なったのかもしれない」
現在の携帯インフラが抱える構造的な問題
予想に反して多くの“絶賛”が寄せられることとなった今回の会見について、ITジャーナリストの山口健太氏は次のように読み解く。
「一般的なシステム障害の会見では、社長が謝罪した後、技術的な説明は担当役員に任せる場面をよく見かけます。これに対してKDDIの会見では、技術担当が同席しているにもかかわらず、高橋社長が直接受け答えをする場面が目立ちました。
質疑応答では、広報が問答集を用意するのが一般的ですが、専門用語の発音や細かな言い回しに不自然さが残ることがあります。しかし高橋社長の説明にはそうした不自然さがなく、自分の頭で理解し、自分の言葉で話している印象を受けるものでした。
具体的には、『音声通話はできないがデータ通信はできる』場合について、iPhoneとAndroidの挙動の違いを説明しています。トップが必ずしも技術に明るい必要はないとは思いますが、もし自分が現場で作業にあたる立場だったらと想像すると、『こういう社長の下で働きたい』と共感した人も多いのではないでしょうか」
一方、障害発生から丸2日経過した現在も完全復旧していない点が批判を浴びてるが、KDDIの障害対応について、どう評価するのか。
「KDDIが起こした通信障害は重大なものであり、経済的な損失だけでなく、コロナや熱中症による緊急通報ができなかったことは深刻な問題です。ただ、対策を施した後に膨大なアクセスが殺到することで復旧が遅れる現象は、ドコモが21年10月に起こした大規模障害に似ています。個々のキャリアというよりも、現在の携帯インフラが抱える構造的な問題といえます。
情報発信についても課題がありそうです。ドコモは早期に『復旧』と発表したことで、ユーザーから『まだつながらない』と批判が殺到しました。実際には、少しずつ制限を解除していく必要があるため時間を要するわけです。KDDIはこれを踏まえて『復旧作業が終了』と表現しましたが、これを『復旧した』と理解する人が増え、混乱を招いています。
7月4日14時の発表では、データ通信は『概ね回復』、音声通話は『利用しづらい状態』が続いています。通常時と変わらない通信品質に戻るという意味での完全復旧がいつになるか気になるところですが、まだ目処は立っていないとKDDIは説明しています」(山口氏)
(文=Business Journal編集部、協力=山口健太/ITジャーナリスト)