NTTドコモは長距離固定通信のNTTコミュニケーションズ(コム)とシステム開発のNTTコムウェア(コムウェア)の2社を2022年1月に傘下に収める。コムとコムウェアは、持ち株会社NTTの子会社だが、ドコモがコムの全株、コムウェア株の66.6%を取得して子会社とする。
NTTが3社を統合してグループの再編を急ぐのは、通信技術の役割が大きく変わってきたためだ。電話や電子メールなどで通信ができればよかった時代は終わり、通信を使って「何ができるか」というサービス競争の段階に移った。「モバイル通信からサービス、ソリューションへ事業を広げ、通信を主力としてきた事業構造を転換したい」。ドコモの井伊基之社長は10月25日に開いた記者会見で、こう述べた。
グループ内の再編の狙いのひとつが法人分野へのシフトだ。単純な通信回線の提供だけではなく、データセンターやクラウド、セキュリティなど非通信のサービスを拡大する。個人向けサービスは値下げ競争が激しい。
法人事業は「ドコモビジネス」のブランド名で3社の事業を統合。法人サービスに実績があるコムが中核を担う。金融、映像やエンターテインメント、電力などの非通信の「スマートライフ事業」を拡大する。25年度はこの2つの事業で「新ドコモグループの収益の過半を創出する」(井伊社長)とした。
「正直にいってドコモはDX(デジタルトランスフォーメーション)などに弱かった」(同)
KDDIに比べ劣勢だった。統合によって構図は変わる。コムは売上高1兆円のうち4割を非通信で稼ぐ。事業再編でドコモの法人ソリューション売上高は約7300億円に達し、KDDIの2.6倍、ソフトバンクの3.7倍となる。
井伊社長は「大企業から中小企業までサービスを一体で提供し、社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)に貢献したい」と表明。企業向けに携帯電話の回線契約や、ネット経由でサービスを提供するクラウド、インターネット用のサーバーや機器を保管するデータセンターの体制を整える。
しかし、法人向けサービスはNTT東日本やNTT西日本、NTTデータなどグループの各社が食い合う分野でもある。統合効果を思惑通りに実現できるかどうかが注目される。グループ再編は第5世代(5G)移動通信システム以降の高速通信での復権も視野に入れている。6Gでは海中や宇宙空間など、あらゆるところで高速通信が可能になるともいわれる。次世代の光通信網や6Gの実用化をドコモが主導し、世界をリードしたい考えだ。
株式時価総額15兆円を目指す
NTTの島田明副社長は自社の時価総額について、「2023年に現在よりも20%大きい15兆円以上を目指す」考えを明らかにした。ブルームバーグ(11月1日付)のインタビューに応じたもの。目標を15兆円以上としたのは「それくらいは最低なければいけない。そうなるように経営をしていく」と述べた。
東証1部上場企業の時価総額ランキングで2位だったドコモはNTTに吸収されてランキングから姿を消したが、3位だったNTTはドコモを取り込んでも5位に後退した。足元の時価総額(11月5日終値時点)はトヨタ自動車(33.2兆円)、キーエンス(18.0兆円)、ソニーグループ(17.7兆円)、リクルートホールディングス(13.2兆円)に次いで、NTTは12.6兆円で5位だ。これを15兆円に引き上げるという。
ドコモとコム、コムウェアの経営統合のシナジー効果として、23年度に1000億円の増益効果を見込む。加えて、自社株買いで株価を上げ、時価総額15兆円を目指す。
NTTの肥大化は公正な競争に逆行?
NTTグループは1985年、日本電信電話公社の民営化によって誕生した通信大手である。ドコモは92年にNTTから分離された後、98年に東証1部に上場。今では、携帯電話のドコモがグループの稼ぎ頭である。
NTTは2020年9月、4兆円を投じドコモを完全子会社化すると発表した。同時にコムやコムウェアのドコモへの移管についても公表したが、不祥事の発覚で遅れていた。NTTグループは一体運営に回帰する。NTTの肥大化を避け、企業間競争を促す目的で分離したわけだが、今回の動きはこの流れに逆行する。KDDI、ソフトバンクなど電気通信事業者28社が「公正な競争を阻害する」として、20年11月に意見書を総務大臣に提出している。
NTTグループの肥大化は、競争の公平性の観点から見ても懸念の声が強い。
(文=編集部)