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NTT・NEC・富士通、世界で重要性高まる…次世代通信「6G」でリード役、米国が期待

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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NTT本社が入居する大手町ファーストスクエア(「Wikipedia」より)

 日米の両国政府が、次世代の高速通信規格である「6G」の共同研究を行うことが明らかになった。それは、NTTNEC、富士通など日本の通信関連企業にとって、国際競争力の向上と先端分野でのシェア獲得を目指す好機がやってきたといえるだろう。ただ、専門家のなかには、「当該分野で米国や中国などから後れを取ってしまった、日本企業にとって“最後のチャンス”になるかもしれない」との見方もある。

 現在、米国のバイデン政権は、産業補助金や海外企業からの技術移転などによって、米国企業の実力を高めることに腐心しているようだ。その背景には、IT先端分野で台頭している中国を抑えようというスタンスが明確にある。米国政府は従来の経済運営に関する基本的な考えを修正し、半導体や6G通信などの先端分野での研究開発および生産技術の向上を支援し始めている。そのために米国は同盟国である日本の企業をより重視し始めた。

 それは、NTTなどにとってビジネスチャンスになるかもしれない。NTT、NEC、富士通などの国内企業に求められるのは、国内の人材と技術をフルに活用し、6G通信規格基準の国際統一に向けた議論を主導することだ。その実現は、日本企業が米中対立から実利を得ることにつながる。各社が6Gや量子暗号技術、さらにはその応用を支えるチップの設計などの分野で存在感を高めることを期待したい。

自由主義経済体制でも起きているゲームチェンジ

 リーマンショック後の世界経済の展開を振り返ると、自由資本主義体制をとる米国など主要先進国よりも、産業補助金政策など共産党政権の指揮による経済運営(国家資本主義体制)を強化してきた中国経済の強さが顕著になってきた。

 特に、中国が進めている先端分野の産業強化策である「中国製造2025」のインパクトは大きい。5G通信分野では、中国のスマートフォンおよび通信機器メーカー大手である華為技術(ファーウェイ)が価格競争力を発揮して世界トップのシェアを手に入れた。ファーウェイと中興通訊(ZTE)2社の通信基地局市場でのシェアは約45%に達する。

 トランプ前政権は制裁発動などによって中国の国家資本主義体制の強化と、それによる世界経済への影響力拡大を食い止めようとした。ただし、制裁によってファーウェイの事業体制は不安定化してはいるものの、5G通信基地局市場でファーウェイのシェアを上回る米国企業は登場していない。6Gの技術開発をめぐる競争が5G以上に熾烈化することを考えると、米国は中国の台頭にかなりの危機感を強めている。

 中国との競争に対応するために、米国は企業の自由な競争を重視した経済運営の方針を見直し、政府がより能動的に市場に介入して企業の研究開発などを支援することを重視するようになっている。今回の日米首脳会談は、そうした米国の焦りが強まり、経済運営の基本方針が変更されていること=ゲームチェンジ、を確認するひとつの機会だ。6G通信技術の研究開発に向けて、米国が25億ドル(約2700億円)、日本が20億ドル(約2160億円)を投じることで合意したのは、米国がIT最先端分野での競争力を回復して政治、経済、安全保障の基軸国家としての地位を守るためだ。そのために、バイデン政権は日本との関係強化を重視している。

 見方を変えれば、米国は日本企業の技術を必要としている。それは、NTTNEC、富士通といった国内の通信大手企業などが国際的な競争力向上を目指すチャンスだ。今回の日米共同投資案の発表は、日本企業が米欧中の大手通信機器メーカーやIT先端企業との競争を優位に進める最後のチャンスになる可能性は否定できない。

最後のチャンスになるかもしれない理由

 1990年代初頭のバブル崩壊後、日本企業が国際競争力の向上を目指すことが難しかったことがある。バブル崩壊後の景気低迷の中で、日本企業は研究開発の強化よりも、雇用維持のために守りの経営を重視した。その一方で、海外では新興国経済の工業化が進んだ。家電などの生産は、日本が重視した垂直統合から国際分業に移行し、デジタル家電に代表されるユニット組み立て型の生産体制が確立された。価格と機能の両面で、日本企業が競争優位性を発揮することは難しくなった。

 そうした世界経済の環境変化が進む中、1999年に旧NTTドコモがフィーチャー・フォン(ガラケー)版のインターネット接続サービスである「iモード」を発表し、一時的に世界をリードした場面があった。しかし、ドコモにとって海外事業を強化することは難しかった。その後、日本の携帯電話および通信市場は世界的なインターネット通信サービスとスマートフォンの登場という変化に取り残され、“ガラパゴス化”した。また、NECや富士通などの電機各社も半導体市場で韓国や台湾さらには中国勢に追い上げられ、競争力の発揮が難しい時期が続いた。

 そうした変化に対して、日本にはIT機器の生産に不可欠な部材の製造技術を磨き、ニッチな分野で競争力を発揮する企業がある。たとえばファーウェイの通信基地局にはTDKの回路資材が用いられている。

 それに加えて、日本政府はNTTによるNTTドコモの完全子会社化などを認め、経営体力の強化を重視している。NTTはNECと資本業務提携を行い、かつての「電電ファミリー」の糾合が進んでいる。その狙いは、通信分野における日本の人材や知識を集約してより大規模かつ効率的に先端分野での研究開発を進めるためだ。競争の促進を重視したNTTの分社化を経て、グループ企業の糾合および関連企業との提携強化へという変化は、米国が取り組むゲームチェンジの流れに符合する。米国が日本との6Gの投資に関する合意を発表した一つの要因は、次世代の通信規格に加えて、量子暗号およびIT関連機器や半導体の製造を支える装置や関連部材などの生産技術面で日本企業が比較優位性を維持しているからだろう。

NTTなどに期待する国際標準規格の構築

 今後、NTTNEC、富士通に求められることは、そうしたチャンスを着実に業績拡大につなげることだ。特に、人材と技術力のさらなる発揮を目指して各社がオープン・イノベーションに取り組む体制を強化し、次世代の通信などに関する国際標準規格の統一に関する議論を主導する展開を期待したい。反対に、そうした取り組みが難しい場合、日本企業を取り巻く事業環境は一段と厳しさを増すだろう。

 過去の日米半導体協定などを振り返ると、米国は自国の企業の成長を促進し、米国の覇権を強化するために日本に協力を求めてきた側面がある。安全保障を米国に頼る日本にとって、米政府の要請の影響は大きい。

 今回の6G分野における日米の連携に関しても、米国は日本に対してコストの負担を求めているように映る部分があると指摘する外交の専門家がいる。バイデン政権は表向き各国に6G通信技術の研究開発や、自国を中心とした半導体のサプライチェーンの整備に向けて、各国に協力を呼び掛けている。その根底に、資金面で米国の負担を軽減し、自国企業の世界シェア回復と拡大を目指す野心があることは忘れてはならない。

 その一方で、中国共産党政権はIT先端企業への税制優遇や土地の提供などの支援を強化している。政府が先端分野での企業の設備投資を強力にバックアップし、それによって経済成長を実現するという点において、米国よりも中国に強みがあることは見逃せない。米国が制裁などを強化すればするほど、中国は国家資本主義体制を強化して6G通信など、世界的に重要性が高まる分野でのシェア拡大を目指そうとするだろう。

 このように考えると、米国がその技術をより必要とし始めたなかでNTTなどが6Gなどに関する研究開発を迅速に進め、次世代の通信規格に関する国際議論を主導することは、日本産業全体の活力を左右するだろう。NTT、NEC、富士通などに求められることは、これまでに蓄積してきた知的財産をより積極的に活用して新しい通信技術を生み出し、米中双方から必要とされる競争ポジションを確立することだ。それは、国内企業が新しいモノの生産に取り組む追い風となり、日本経済の安定にも無視できない影響を与えるだろう。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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